#4.「可哀想と言った理由」
ハムカツを食べた後、俺たちは、商店街を歩きながら、話の続きをした。
「こう言うと、手前味噌になっちゃうけど、あの後、迷惑かけてきた人たちに謝ってさ。店の手伝いもした。」
「許してもらうためにですか?」
「さあねぇ。俺は、迷惑かけた分、やられた人たちに良いことをしたい。結局は、誰かに求められてないのに、自分勝手にやったことだけどな。」
ミキタカは、「そうですか」と言いながらも、何か疑問がありそうな顔をしていた。俺は、「どうした?」と聞いた。
「あなたの考えは、良い行いです。しかし、良いことを積み重ねれば、過去の悪事が消されるとは限りません。あなたは、私たちが生きる時代を否定していますが、こういう被害があるから、その時代ができたと思うのです。悪いことをしても、得をする者と真面目に生きても損をする者がいるから。それを踏まえて、あなたは、どうして、私たちが生きる時代を否定なさるのですか?」
「場所を変えよう。」
俺は、ミキタカと手を繋ぎ、商店街を過ぎた先にあるロータリーに行った。そこの中央にある池の周りに立っているベンチに座った。
「久々に来たな。ここ、小さい時、ジイジと鯉の餌やりをしたんだ。今は、面倒見る人がいないから、水も抜かれてるけど。」
「楽しそうな思い出ですね。」
「あぁ。俺は、ずっと過去を引きずってきた。失ったことを認めたくなくて、人に当たってたんだ。」
「そうですか・・・。」
「なぁ、ミキタカ。開き直るようだけど、これが青春だよ。」
それを聞いても、彼女は、きょとんとした顔を浮かべていた。
「俺の場合は、重症だ。でも、失敗を積み重ねて、何かを成功していく、人生には、そういうのが必要だって思うんだよ。」
「ですが、成功までは、多大なストレスや周りへの悪影響を及ぶリスクも考えられます。」
「ストレス?上等だよ!食べるものって、今の気分で選びたいものだろ? 人生も同じだよ。誰かを困らせたなら、謝ったり、俺みたいに何かすればいい。それに、ホントに辛くなったら、楽しかったことを思い出せば、楽になる。」
俺は、池を眺めた。
今は、空っぽだけど、俺の頭の中では、違う景色が浮かんでいる。水が溜まっていて、たくさんの鯉が泳いでいる。視線の先には、ジイジが小さい俺を抱っこしている。俺は、握りしめた手をパッと開き、餌を池にばら撒く。パクパクと食べる鯉を見て、ジイジは、俺の頭を撫でた。
他にも、この池では、小学5年生の頃に、キャッチボールをしている景色も浮かんだ。
思い出に浸ると、水の中にいるみたいに、目がぼやけてきた。袖で拭っていると、ミキタカは、ハンカチを渡した。俺は、「ありがとう」と言い、涙を拭いた。
「ここへ来なくても、大丈夫です。だって、あなたのおじいさんは、きっと、空の上で、あなたを見守ってくれてますから。」
この時、ミキタカは、俺に初めて、笑顔を見せた。ありきたりな言葉だ。けど、その言葉だけで、俺は、恐れることなく、進める気がした。未来というドアを開いた先に。
今の家に帰る途中、俺は、ミキタカに言った。
「今更だけど、なんで、全身タイツ?」
「これは、内側から全身を隅々まで洗ってくれるスーツです。手首についたボタンを押せば、シャンプーや水が出て、洗ってくれます。」
「お風呂いらずなんだ。いいなー。」
「私のスーツ、お貸ししましょうか。あなたの服も着てみたいので。」
「いや。いいよいいよ。」
俺は、顔を熱くして、慌てて断った。ミキタカは、俺の顔を見て、
「顔、赤くなってますけど、どうされました?」
「うるせー!何でもねーよ。」
両手で顔を隠す俺を見て、ミキタカは、フフッと笑った。
良いことばかりも良いけど 瀬滝二会 @setaki2
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