#3「home town」

 ミキタカは、俺を家に戻した。俺は、「ちょっと外を歩いてみないか?」と誘い、彼女と外に出た。

 最寄り駅で二人分の切符を買い、一枚、彼女に渡す。俺たちは、電車に乗って、俺が生まれ育った町に向かった。

 駅を出て、10分くらい歩くと、懐かしい商店街があった。一人で切り盛りしつつ閑散としているパン屋や、2,3人行列があった蕎麦屋も、俺が物心ついた時から変わっていない。ミキタカは、この場所を不思議そうに眺めていた。思い出に浸っていると、後ろから、威勢の良い声が聞こえた。

 「おっ、来やがったな。この野郎!」

 振り返ると、ラーメン屋の加藤がいた。後ろに料理を入れたおかもちを乗せ、自転車を転がしていた。加藤と呼んでいるが、俺より10個年上だ。

 「おっ、加藤か。相変わらず、口悪いな。」

 俺たちは、笑いながら、再会を喜んだ。加藤は、俺のそばにいるミキタカをチラッと見た後、俺に囁く。

 「随分、個性的な恰好をした彼女さんだな。」

 「ちげーよ!引っ越し先でできた友達だよ。」

 「照れるなよ!」

 あいつは、俺の言葉を信じず、にやついた顔で、俺と肩を組んで、そう言った。

 「マジで、彼女じゃねーから。」

 俺の話を全く聞かず、加藤は、タイツの女に変な豆知識を教える。

 「お嬢ちゃん、やめたほうがいいぞ。こいつ、中坊ん時、昼の時間帯を狙って、俺が出前で使ってるバイク、よく盗んでたんだよ。それで、悪仲間と盗んだ料理を食べててな。あん時は、結構、迷惑かけたよなー。」

 「そ、そうだな。」

 加藤の鋭い視線に、俺は、苦笑いを浮かべた。ミキタカは、感情のない声で、正論を口にする。

 「たしかに、迷惑ですね。」

 「う、うん・・・。」

 今思えば、罪悪感があるので、俺は、ただ、返事をするしかなかった。しかし、加藤は、俺の肩に手を置き、

 「だけどよー、一回、バランス崩して、倒れたことあったんだよ。それで、料理が地べたに零れちまってな。そしたら、こいつ、食べ物を大事にするやつでさ、悪仲間も呼んで、謝ったんだよ。それ以来、悪さを止めて、店で働くようになった。こいつは、不良の癖に、どこか優しいところもあるんだよ。」

 「加藤・・・。」

 普段、口の悪いことしか言わない加藤が、そんなことを思っていたとは・・・。俺は、感極まり、言葉が出なかった。

「じゃっ、次の出前があっから」と言い、加藤は、自転車に乗って、走っていった。

 その後、ミキタカは、俺に、古傷をえぐるようなことを聞いた。

 「不良だったのですね。」

 「そうだよ。あいつの言う通り、中学の頃は、学校が楽しくなくて、荒れてた。八百屋で野菜盗んだり、寿司屋で無銭飲食したり。」

 ミキタカは、目を細めながら、俺に言った。

 「最低ですね。それをして、困る人が出ることは、考えなかったのですか?」

 「考えなかった、あの時はね。でも、ラーメン屋の時みたいに、罰が当たって、やっと分かったよ。あー、俺って、こんな酷いことしてきたんだなって。」

 話の途中、今度は、ちょうど、近くにあった弁当屋のおじさんが声をかけてきた。

 「久しぶりだな! ヤンチャ坊主!」

 この人には、だいぶ優しくしてもらった。俺は、「ご無沙汰してます」と頭を下げた。

 「いいんだよ。そんな堅くならなくても。ハムカツ食べるか?」

 「いただきます。」

 「ほら、彼女さんも。おいで。」

 おじさんは、両手で、二つのハムカツを手渡した。少し白髪頭になっているけど、半袖から見える力強そうな腕は、変わらない。俺は、代金を払うが、おじさんは、断った。

 「いいよいいよ。君には、色々やってもらってるからな。実演販売とか。この店が今も儲かってるのも、君のおかげだしよ。」

 「恐縮です。」

 「だから、いいって。わざわざ礼儀正しくしなくても。」

 おじさんは、そう言って、笑った。

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