【出所不明の都市伝説】「冷蔵庫の卵」

藤城ゆきひら

「冷蔵庫の卵」

「ねえ、翔子」


放課後の教室で、荷物を片付けた沙月が、私の席に近づいてきた。


「なあに、沙月。また都市伝説の話?」


「そうよ。今回は『冷蔵庫の卵』っていう都市伝説よ」


「冷蔵庫の卵?なにそれ、普通のことよね?」

どう考えても都市伝説になるような話ではないと思った。

そもそも、卵は冷蔵庫に入れておいた方がいいだろう。


「もしかして、冷蔵庫に入っている卵のパックを想像したな~」

沙月は少しふくれっ面だ。


「普通に考えたらそうなるでしょ。ちなみに10個入りのパックよ」


「私がそんな普通の話を都市伝説として話すわけないでしょ」

じゃあいったいどんな話なのだと内心思っていると、沙月が話を続けた。


「色んなパターンがあるんだけど。共通しているのは、ある日帰宅すると、冷蔵庫の近くに卵が1つ落ちてるんだって」


冷蔵庫の近くに卵が1つ落ちている……想像するとシュールではある。

卵が冷蔵庫から落ちたなら、割れてしまうはず。

つまり、床に卵が1つ転がってるというわけだ。


「落ちている卵は、白だったり茶色だったりするけれど、買った覚えが無い卵なんだって」


じゃあ、もし自分の身に起きたら、茶色い卵が1つ落ちていることになるだろうと考える。

近所のスーパーで1番安いのが、白い卵だからだ。


「気味が悪くなって捨てる人には何も起こらなかった。もったいないから食べた人は、体の不調が治った。そんな話で終わるんだ」


「思ったより短いというか、あんまり怖くない話ね」

そう沙月に返した私だったが、一つ気になることがあった。


「ねぇ。なんとなく、鶏の卵を想像していたんだけど、落ちている卵って鶏の卵なの?」


「お!さすが翔子。そこに気が付くとは筋が良いね。そう、見た目は鶏の卵らしいよ。冷蔵庫の近くに1つだけ落ちているから、『冷蔵庫の卵』って言われてるみたい」


なるほど、ダチョウの卵のように大きかったり、カエルの卵のようなものでは無いようだ。

もし、カエルの卵だったらそれだけで非常に恐ろしい都市伝説になってしまう。


「翔子はさ、この都市伝説の正体をなんだと思う?」


沙月にうながされ、少し正体を考えてみる。

何者かが卵を置いていく、卵を産んで去る?

卵の色が違うということは、産む親にも種類がある?

それとも、卵が突然現れる?

卵がテレポートする怪異?


「そうね。卵生の冷蔵庫がいるとは思えないから、勝手に家に上がり込んで、冷蔵庫の近くに卵を産んでいく妖怪でもいるんじゃない?」


「妖怪か、口裂け女みたいなタイプの都市伝説ね」


「でも今の話だと、卵しか見られていないのよね?なにかが卵を産んだのか、もしくは卵が突然現れたのかとか、なにもわからないのね」


「あぁ、卵がテレポートして現れる都市伝説って可能性もあるのか。翔子って都市伝説に詳しくないのに、考えるのは得意よね」


褒められたのか、けなされたのかいまいちわからない沙月の言葉をうけ、沙月の意見を聞きたくなった。


「沙月はどう思ってるの?」


「私はね、文字通り『冷蔵庫の卵』だと思ってる」


「文字通り?」

意味が解らず、そのまま聞き返してしまった。


「そう。文字通りの意味で、冷蔵庫が産んだ卵だと思ってるの」


「どういう意味?」


「冷蔵庫が産んだ、冷蔵庫の卵って意味」


「私の言った案よりも、沙月の方が都市伝説って感じがするね」


冷蔵庫が産んだ、冷蔵庫の卵。

本当に冷蔵庫の卵だとしたら、食べてしまった人は、大丈夫だったのだろうか?


そんなことを思案していると、沙月が意地の悪そうな顔で言った。


「もし、冷蔵庫の卵をあたためて、孵化させたら何が生まれるんだろうね」


そんな『冷蔵庫の卵』の話を終えて、帰路についた。



――翔子の家――

「ただいま~」


返事はない。

それはそうだ、まだ両親は帰ってきていない。

手洗いやうがいをしっかりして、制服から着替える。


少し、喉が渇いた私は、冷蔵庫にお茶を取りに行く。

そこで気がついてしまった。


冷蔵庫のすぐ近くに茶色い卵がひとつ落ちていることに。

その卵を見た私は、学校で別れ際に沙月が言っていた言葉を思い出すのだった。


―― もし、冷蔵庫の卵をあたためて、孵化させたら何が生まれるんだろうね。


――これを読んでいるアナタの目の前にも、覚えのない卵『冷蔵庫の卵』が現れるかもしれません――

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【出所不明の都市伝説】「冷蔵庫の卵」 藤城ゆきひら @wistaria_castrum

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