第6話:対決前夜、インターネットは燃えているか
「……見てよ、お兄ちゃん。トレンド1位が『魔法vs手品』、2位が『VFXの正体』だよ」
ミサが疲れ切った顔でスマホを差し出す。画面の中では、カイトの次なる生配信を巡って、ネット上がお祭り騒ぎになっていた。
「当然だな。真理と虚飾がぶつかり合うのだ。民が固唾を呑んで見守るのは、知的好奇心を持つ生命体として正しい反応と言える」
カイトは悠然と答えながら、昨日「魔改造」を施した銀の盾――もとい、第一級階級章を丁寧に磨き上げていた。
表面には、肉眼では捉えられないほど微細な術式がびっしりと刻まれており、時折、静電気のような青い火花がパチリと弾ける。
「いや、みんな『お兄ちゃんがどうやって騙してるか』を暴こうとしてるだけだからね? 特に対戦相手の『メンタリスト・ショウ』。あの人、登録者200万人のマジシャン界の重鎮だよ? 『カイトのトリックは全て解明した。ライブで恥をかかせてやる』って、さっき煽り動画出してたよ」
「メンタリスト……。ふむ、精神干渉系の魔導師か。この魔力が希薄な世界で心を操るとは、なかなかの手練れのようだな」
「違うってば、心理学を応用した手品師! 魔法なんか一ミリも使わないから!」
カイトはフッと鼻で笑った。
「案ずるな、ミサ。精神干渉の基本は、術者自身の魂の強固さにある。私の『静止した精神(マインド・オブ・スチール)』を揺さぶることなど、三流の魔導師には不可能だ」
「……もういいよ。話が通じないのはいつものことだし」
ミサは溜息をつき、配信機材の最終チェックに入った。 今回の対決舞台は、ショウ側が用意した都内の大型撮影スタジオ。
そこには最新のハイスピードカメラ、赤外線センサー、さらには電磁波測定器までが完備されているという。
ショウの狙いは明確だ。「物理的なトリック」をあらゆる角度から遮断し、カイトの「魔法」を「映像加工」の逃げ場がない状態で完膚なきまでに否定すること。
しかし、カイトにとってその準備は、むしろ「お膳立て」でしかなかった。
(……これほどの注目。これほどの期待と疑念。かつてない規模の『認知のマナ』が、この盾に集まりつつある)
カイトが銀の盾を手に取ると、盾が共鳴するように微かに震えた。
現代には魔力が乏しい。
だが、数百万人が同時に「何かが起きる」と確信し、一つの画面に意識を集中させる瞬間、そこに「人造の聖域(パワースポット)」が生まれる。
「用意はいいか、ミサ。いよいよ、この世界の民に『本物』の味を教えてやる時が来たようだ」
「はいはい。お兄ちゃん、一応言っておくけど、スタジオの備品は壊さないでよ? 弁償代で収益が全部飛ぶのは勘弁してよね」
「……善処しよう」
数時間後。
対決生配信の待機画面には、開始30分前にもかかわらず、すでに20万人を超える視聴者が集結していた。
コメント欄は、応援、罵倒、そして期待で、滝のように流れ続けている。
@Hater_A: 「ショウさん、こいつのメッキを剥がしてくれ! 浮遊とか絶対ワイヤーだろ」
@VFX_Fan: 「カイト様、このスタジオの監視網をどう抜けるか見ものだぜ。新時代のイリュージョン見せてくれ!」
@Realist: 「最新のプロジェクションマッピングでも、あの光の質感は出せない。何か別の『物理的タネ』があるはずだ」
そして。 運命の配信開始時間が、ついに訪れる。
「――全人類の諸君。真理の授業、ライブ開講だ」
画面が切り替わり、銀の盾を背負ったカイトの姿が映し出された瞬間、同接数は一気に50万人を突破した。
大賢者vsマジシャン。 現代の常識を根底から揺るがす「奇跡の夜」が、今、始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます