第2話:コメント欄という名の予言書

翌朝、カイトはミサの絶叫で叩き起こされた。


「お兄ちゃん! 起きて! 大変なことになってる!!」


 差し出されたスマホを見て、カイトは目を細めた。  昨夜投稿した『火球の作り方』の再生数が、一夜にして100万回を超えていたのだ。


「これ、見てよ! コメント欄!」


@User_A: 「CGの質感がガチすぎる。火の粉の舞い方が物理法則に従いすぎてるだろ」

@User_B: 「これ一人で作ったなら、ハリウッドからスカウト来るレベル。加工乙って言えないクオリティ」

@User_C: 「最後、部屋の壁がちょっと焦げてて草。小道具まで凝ってるな」


 カイトは満足げに頷いた。


「ふむ。この世界の民も、見る目はあるようだ。私の『ブイ・エフ・エックス』の質を評価している」 「違うよ! みんなこれ、作り物の映像だと思ってるんだよ!」


 カイトは眉をひそめた。 「作り物? 失礼な。私はいつだって真剣だ」


「もう……お兄ちゃんが何を言ってるかわかんないけど、とにかく広告収益の審査が通ったみたい! これで、来月の家賃が払えるかもしれない!」


 ミサがスマホの画面を見せると、そこには確かに「収益化承認」の文字があった。  それと同時に、カイトは自分の体の中に、温かい力が流れ込んでくるのを感じた。


(……これは? 魔力か。いや、違う。これは……『認知のマナ』か!)


 カイトは気づいた。  この世界には自然界の魔力はほとんどない。しかし、動画を見た大勢の人間が「凄い」「本物みたいだ」と意識を向けた瞬間に、その認知がエネルギーとなって自分に還元されているのだ。


「なるほど……。この世界の仕組みを理解したぞ、ミサ」 「え、急に何?」 「弟子(チャンネル登録者)が増えれば増えるほど、私の魔法はより強固になる。ならば、私はより多くの真理を語らねばならん。民が私を『最強のクリエイター』と認めるほどに、私は本当の『最強の賢者』に戻れるのだ」


 カイトの瞳に、かつてない野心が宿った。  これはただの小銭稼ぎではない。  YouTubeこそが、この世界における「賢者の塔」なのだ。


「よし。次は『生活魔法』だ。民が最も困っていることに応えてやろう」


 こうして、大賢者カイトの「世界魔法化計画」が本格的に始動した。

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