『大賢者の魔導教室』 〜「神VFX乙」と言われますが、これ全部無詠唱です。登録者数が魔力になる現代で、世界を魔法化しようと思います〜
ひのたろう
第1章:爆誕!最先端VFXチャンネル
第1話:大賢者、ログインする
その男、ゼノン・アルトワール。 七つの属性を極め、神の領域に手をかけた大賢者は、魔王との決戦の末、満足感とともに瞳を閉じた。 ――はずだった。
「……ようやく、静かな眠りにつけるか」
だが、次に目を開けた時、視界に飛び込んできたのは聖域の空ではなく、カビ臭い天井と、積み上がったカップ麺の容器だった。
「……? ここは、冥府か? 随分と世俗的な……」
体が重い。魔力は、ほぼ底を突いている。 鏡(らしき板)を覗き込むと、そこにはボサボサの髪をした、不健康極まりない青年の姿があった。 直後、強烈な記憶の奔流が脳を焼く。
ここは、魔法の失われた異世界「日本」。 この体の持ち主は「佐藤快人(サトウ・カイト)」。 そして彼の生業は――。
「兄貴、いい加減にしてよ!」
突如、部屋のドアが勢いよく開いた。 そこにいたのは、派手な髪色をした少女――この世界の妹、ミサだ。
「また死んだ魚みたいな目でモニター眺めて! 先月の収益、たったの8円だよ!? 今月中に登録者が増えなかったら、このアパート追い出されて、二人で公園生活なんだからね!」
カイト……いや、ゼノンは、ミサが突きつけたスマホという魔法具(に見える機械)を凝視した。 記憶が繋がる。カイトは「YouTuber」という名の表現者であり、この「YouTube」という広場で人々に芸を見せることで、日銭を稼いでいた。
(ふむ……。要するに、この箱(カメラ)に己の技を記録し、広く民に公開することで、対価として「シュウエキ」という名の金貨を得る……。それがこの世界の賢者の在り方か)
ゼノンは納得した。 かつての異世界では、魔法は選ばれた者にしか使えなかった。だが、この「YouTube」というものを使えば、世界中の人々に自分の知識を授けることができる。
「……案ずるな、ミサ。私は決意した」 「はあ? 何よ急に」 「私は、この世界の民の知的水準を底上げしてやる。魔法を知らぬ者たちに、真理の光を授けるのだ。そうすれば自ずと『シュウエキ』とやらも集まるだろう」
「……魔法? またお兄ちゃんの『厨二病』が始まった……。もういい、勝手にして! 私はバイトに行くからね!」
ミサは呆れ果てて部屋を飛び出していった。 残されたゼノン……カイトは、デスクに置かれたカメラを見つめる。
(魔力は枯渇しているが、この『カメラ』という装置……。これが民と繋がっているのなら、私の姿が映るだけで僅かなマナが還元されるはずだ)
カイトはぎこちない手つきで録画ボタンを押した。 レンズの向こう側にいるであろう、未来の弟子たちに向けて、彼はかつて王侯貴族にすら見せなかった尊大な、しかし慈愛に満ちた笑みを浮かべる。
「……全人類よ、刮目せよ。真理への第一歩を教えて遣わそう。まずは、基礎中の基礎……『火球(ファイアボール)』の術式からだ」
カイトがパチン、と指を鳴らす。 本来なら現代の希薄な魔力では、マッチの火すら灯らないはずだった。 だが、カイトの「大賢者としての圧倒的な術式構成」が、空中の僅かなマナを強引に収束させた。
ボォッ!!
何もない空間から、バスケットボールほどの大きさの「本物の火球」が出現した。 部屋の空気が一気に焼き焦げ、火災報知器が鳴り響きそうになるのを、カイトは慌てて抑え込む。
「いいか、コツは酸素を練るのではない。己の意思で熱を固定するのだ。……さあ、復習しておくように」
カイトは満足して録画を止めた。 この数時間後。 投稿された動画が「史上最高クオリティの個人制作VFX」として、世界中のSNSを爆発させることを、彼はまだ知らない。
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