命題:作者の知性を超えるキャラクターは描写できない

ナード

質問:作者の知性を超えるキャラクターは描写できるか

結論:

 不可能。

 演出はできるだろうが本質的には作者の知性を超えることはできない。


 これだけですと大変に乱暴なので以下に私の考えをまとめていきます。


――――――


1.作者の知性を超えるキャラクターとして一般に上げられるものとは


 列挙していきましょう。


・知識量

 検索などで得られる膨大な知識。それを暗記しているかのように記述すれば作者の知性を超えているように見えます。

・瞬間思考

 作者が一ヶ月かけて考えた論理。それを一秒で閃くように記述すれば作者の知性を超えているように見えます。


 私はこの2つを知性の現れと見ていません。ではそのあたりについて次でまとめます。


――――――


2.私の考える知性というもの


 私は以下のように考えています。


 知識量は知性を担うパラメーターですが、それが知性そのものではありません。

 知性とは知識という点と、その点をつなぐ根拠という線、この点と線の構造物から導き出されるように新たな点と線が生まれ拡張され、継承されていくもの。

 これが私の考える知性です。重要なのは知識量ではなく、根拠。

 また思考速度だけでは知性と思っていません。人間の思考は脳内の化学変化による電気信号で成立します。これは思考が光速に縛られており、システム上極短時間での深い論理思考が不可能であることを示します。結果瞬間思考は論理思考を省略した「ひらめき」であり「根拠を無視した結果だけを得たもの」となります。

 人間の脳の構造上、十分な論理的思考を行うには時間が必要なのです。

 もちろんそのひらめきに至る知識や根拠はあるでしょう。その構造物からひらめきの点へつなぐための根拠を構築する時間が足りない。

 継承のないひらめきはただの暴論にしか見えません。

 根拠なくして知性なし――ひらめきは知性ではなくセンスでしょう。

 では最初にひらめきを提示し、のちに理論展開を時間を取って記述した場合はどうなのか?

 私は「ひらめき、実行したときはうまくいったけども暴論。そのあとのデブリーフィングで理論体系が組み上げられ、知性になった」という状況と考えます。

 知性にするためにはそのひらめきに対し根拠を与えなければなりません。根拠の線は作者によって引かれます。よって作者の知性がリミッターとなります。


 ここから冒頭の結論が導き出されます。


――――――


3.監修者を置くことで超えられる可能性


 作者の知性が上限であることを受け入れた場合、より知性の高いキャラクターを描く必要があるケースでの解決策として監修者を置くという手法があり得るでしょう。が、これも結局は作者の知性を超えることができません。

 監修者の意見を取り入れ、記述する。この場合、作者の知性のフィルターを通して描かれます。

 作者が理解できないものは描写できないでしょう。

 理解を超えたものについては監修者の意見を鵜呑みにしてそのまま書いた場合、その方面の記述は監修者が全て行っていることと等価であり、監修者は作者という括りに組み込まれていると考えます。

 作者グループ内で知性の分担が行われますが、結局のところその方面に関する知性の上限は監修者のものになり、作者の知性を超えることができません。


――――――


4.歴史の話:ヘヴィサイド演算子


 オリヴァー・ヘヴィサイドという電気技師がいました。

 大変に優秀な人でしたが、正式な教育はあまり受けていません。

 ですが電気通信、数学の巨頭の一人です。そう、その殆どを独学で培った巨人なのです。

 そのヘヴィサイドは演算子法と呼ばれるテクニックを編み出します。

 微分方程式を代数方程式として扱う演算子法は現実によく適合していましたが、数学的な根拠はなく論争が起こります。これに対しヘヴィサイドは以下のような強いメッセージを返しています。


 消化のプロセスを理解していないからといって、ディナーを拒否する必要があるのかね?

 Shall I refuse my dinner because I do not fully understand the process of digestion?


 実際にはこの段階では点としては浮いている状況で根拠がなく、暴論です。

 後にブロムヴィッチやミクシンスキーによって演算子法はラプラス変換の実用的な応用であることが証明され、「暴論」から「知性」になりました。

 これは監修者による知性の拡張、あるいはデブリーフィングで知性へとなった例でしょう。


――――――


5.だがキャラクターは作者の知性を超えられないという結論に絶望する必要はない


 私は人生は常に努力し続けるもので、研鑽しないのは死と同じと考えています。

 私の知性には当然天井が存在し、キャラクターたちはその天井を超えることができません。

 ならばその天井を引き上げる努力をする。これについては諦めていません。

 よって私は冒頭の結論に絶望していません。むしろワクワクしています。


 あなたは、どうですか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

命題:作者の知性を超えるキャラクターは描写できない ナード @Nerd

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ