第2話


 足を止めた。

 顔をあげた。

 目が合った。


「ボクが言うことではないけれど」


 猫だった。

 そこに居たのは猫のような女性だった。

 人懐っこそうで、誰にも懐きはしない。勝手に想像し、勝手に期待する。実に勝手な妄想だ。


「酔っ払いの独り言に付き合うと碌なことにならないよ」


 そう言って、彼女は笑う。安っぽい缶チューハイを持ち上げて。

 八重歯が、威嚇にも歓迎にも思えてならなかった。


「ただの落第者だよ」


 ベンチの中央に座っていた彼女。

 半尻分右にずれて生まれたスペースで、俺は弁当の蓋を開けた。箸袋を裂く。そういえば俺はハンバーグ弁当を買っていた。


「人並みに人になれなかった」


 蓋にパッケージされただけの緑。外してしまえば白と茶色だけが占拠する。

 ベンチに座る二人。もしくは一人と一人。


「たまにどこかで酒を飲むんだ。今日はたまたまここだった」


 食事をとる。

 栄養を摂取する。

 胃に運ぶ。


「美味しいかい」


「普通かな」


「それはいいことだ」


「そうかな」


「普通ができないボクがいる」


「それを」


「うん」


「かっこいいと思うボクもいる」


 いたずらっ子のように。


「そういうこと」


 彼女は笑う。

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