買えないんだろうね

@chauchau

第1話


 子供の頃に夢見た大人に俺はなれたのか。

 そんなこと考える暇はない。余裕はない。意味もない。


 毎朝満員電車に揺られ、下げたくもない頭を下げて、誰も本心と思っていない愛想笑いを浮かべて、周囲に合わせて残業し、自炊は面倒だとコンビニ弁当を温める。


「詰まるところは」


 有料になったビニール袋は、小さな積み重ねとなって財布を軽くする。それでも、買い物袋を職場にまで持参しないのが俺だ。中身が傾かないようにと支える手に伝わる熱すぎる熱は俺を温めてはくれない。


「酒に酔うにはいい夜だ」


 通り慣れた公園の、見慣れてはいない公園の、塗装が剥げたベンチに座る酔っ払いの戯れ言に足を止めたのは。


「そうは思わないかい」


 どうしてだろう。

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