家時間、それは推し活時間
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第1話 ただいま、推し活はじめます
第一章 ただいま、推し活のはじまり
「ただいまー」
玄関のドアを閉めた瞬間、うちの一日はここから本番になる。
大阪生まれ、大阪育ち。まわりからは「ようしゃべるなぁ」って言われるけど、家に帰ったら少しだけ静かになる。
うちの名前は、結衣。
学校では、ごくふつうの小学6年生。
宿題にため息つく日もあるし、ちょっと苦手な教科もある。
でもな、推しのことを考えてる時間だけは別世界や。
ランドセルを置いて、服を着替えて、テレビの前に座る。
机の上には、何回も見返したカード。
引き出しの中には、集めてきた大事な推し活グッズ。
この瞬間、家はただの「家」やなくなる。
ここは、結衣の現場。
大声出さんでも、会場に行かんでも、
気持ちはちゃんと最前列におる。
外では会われへん推しと、
いちばん近くで向き合える場所。
それが、うちの家や。
家時間、それは推し活時間。
大阪の片すみで、今日も結衣の大切な時間が、
静かに、でも確かに始まる。
第二章 カードとテレビのあいだ
ランドセルを置いて手を洗ったら、うちはすぐ机の前に座る。引き出しを開ける音だけで、気持ちが少し上がるのがわかる。中には、今まで集めてきた推しのカードがきれいに並んでて、一枚一枚にちゃんと思い出がある。友だちと一緒に買いに行った日、なかなか出えへんくて悔しかった日、たまたま引けて心の中で叫んだ日。カードを手に取るたび、その時間まで戻れる気がする。テレビをつけたら、画面の中の推しが動き出す。声を出したい気持ちはぐっとこらえて、うちはただじっと見る。家の中は静かやけど、心の中は忙しい。ここはライブ会場でも、スタジオでもない。でも、確かに推し活の時間や。カードとテレビのあいだで、うちは今日の疲れを全部手放して、また明日がんばる力をもらうんや。
第三章 静かな最前列
テレビの音量を少し下げて、うちはクッションにもたれかかる。画面の中の推しは遠いはずやのに、不思議と近く感じる瞬間がある。ライブ会場みたいに歓声はないし、ペンライトも振られへん。それでも、ここがうちの最前列やと思える。学校であったこと、ちょっとしんどかったこと、うまく言えへん気持ちも、推しを見てるうちにだんだん丸くなっていく。誰にも見せへんこの時間は、うちだけの宝物や。家の中は相変わらず静かで、時計の音だけが進んでる。でも心はちゃんと前を向いてる。推しががんばってるから、うちも明日がんばれる。そう思えるだけで、この時間は意味がある。静かな部屋の真ん中で、うちは今日も最前列に座って、そっと明日への力を受け取るんや。
第四章 明日につながるスイッチ
テレビを消したあと、部屋は一気に静かになる。でも、さっきまでの気持ちは消えへん。机の上のカードをそっとそろえて、引き出しを閉めると、推し活の時間がちゃんと終わった合図になる。宿題のノートを開くと、少しだけやる気が出てる自分に気づく。推しを見てた時間は、ただ楽しかっただけやなくて、心の中にスイッチを入れてくれてたみたいや。明日も学校はあるし、しんどいこともたぶんある。それでも、家に帰ったらまたこの時間が待ってると思えるだけで、一歩前に進める。大阪のこの家で、今日も推し活は静かに終わって、次の一日へとつながっていく。家時間、それは推し活時間。そしてそれは、明日をがんばるための大事な準備時間なんや。
第五章 おやすみ、現場
お風呂をすませて布団に入ると、部屋の明かりが少しだけ暗くなる。さっきまで見てた推しの表情が、まぶたの裏にまだ残ってる。時計の音を聞きながら、うちは今日一日を思い返す。学校のこと、家に帰ってからの時間、カードとテレビと静かな最前列。どれも特別なことはないはずやのに、ちゃんと心に残ってる。明日も同じ一日かもしれへん。でも、同じやからこそ安心できる。布団の中で小さく息を吸って、うちはそっと目を閉じる。家はもう現場やない。ただの家に戻ってる。それでも、推し活の余韻は胸の中にちゃんとある。
第一話・完
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