第6話 クロエとジャック

「フッ、これでやっとまともに戦えるねっ!」と、手にしたビッグディッパーを片手で数回ほどブンブン回した後に、両手で持ち替えて「大天削グランドスクレイプ!」と叫び、下にいる洸太と陽助に向けて水平に素早くそして豪快に振る。


 二人は即座に回避し、そして機体の大部分と地面がガサッと大きく筋状に掬い取られた。二人を討ち損ねたことに腹を立てて「チッ」と舌打ちをする。


「やっと来たのね。随分遅かったじゃない」と、クロエが男に近づいて聞いた。


「指定された場所で待機していたら墜落予測が大幅にずれて、思いの外遠くへ飛行機が着陸したからな。大慌てで移動して時間がかかってしまった。それと、途中で誰かさんの忘れ物も拾ったしなあ」と経緯を説明しつつ、露骨に愚痴を零す。


「やかましいわね。あたいが一番早く来てこいつらをぶっ殺したかったから、落としたことに気付かなかったの! 悪い?」と、思春期の女の子らしからぬ荒い口調で開き直る。


 クロエは先鞭をつけるべく一番乗りで現場に駆け付けたのだが、「一番」に拘るあまり、肝心の武器を持たぬまま現場に乗り込むこととなったのだという。自分の失態を棚上げにする言い訳としては少々子供っぽかったが、「まあ仕方ないか」と男は内心呆れた。


「初めての野外実戦だからって、浮かれ過ぎなんじゃないのか?」


「黙れ、殺すよ? そんなことより、一緒だったペットたちはどうしたのよ? そこで突っ立ってないでさっさと手伝いなさいよ!」と、クロエが男に向かって感情を込めてそう吐き捨てた。


「もう来てるよ、ほら」と言って男が徐に空を見上げる。その真上では、大きな鳥のような何かが円を描くように飛び回っていた。


「それに、ペットって言うな。失礼な。これでも彼等は嘗て、太古の地球に長い間君臨していた、偉大な支配者たちなんだぞ!」と、男が不機嫌そうに反論する。


「な、何だあれは!」


 その鳥のような何かはその後、突然方向を変えてミサイルのように陽助に向かって恐るべき速さで落下していき、そして地上付近まで下降したところで、態勢を変えて両足を前に出す。


 勢いを利用してそのまま足の爪で攻撃してくると予想した陽助は、機敏に横に移動して回避し、その何かは砂埃を巻き上げながら「ドォオオオンッ!」と地面にダイブした。


「今のって……」


「プテラノドン。今から約8200万年から7100万年前の中生代白亜紀後期に生息していた、最も有名な翼竜さ」と男が得意げに答える。その横でプテラノドンの骸骨が腕を広げて、空に向かって甲高い咆哮を上げる仕草をしてみせた。


 筋肉や皮膚、更に臓器や感覚器などの器官が全く無く、頭から足の指に至るまでただの無機質な骨だけの身体となっていた。声帯も無いため、鳴いても声は発せられず、代わりに聞こえるのは、動く度に骨と骨が擦れたり、ぶつかったりする時に出るガシャガシャ音のみで、それによって不気味な存在感を放っていた。


「そんなこと分かってる。何で骨だけなんだって聞いてんだよ!」骸骨と化したものの、まるで生きているかのような動きをしていることに、陽助は理解が追い付かない様子だった。


「そういうものだからだよ。あっ、ところで俺はジャックだ。こいつを意のままに操ることが出来る」ジャックと名乗った男が手を真っ直ぐ突き出すと、それを合図にプテラノドンが口を大きく開けながら陽助に向かって突進していった。


 両前肢も地面に付けて四足歩行で進んでいく。それを見て陽助もいち早く避けようとしたが、ジャックが放った念力に捕えられて動けなくなってしまい、そのままプテラノドンの骸骨の嘴に咥えられて地面に叩きつけられ、その後大空へ投げ飛ばされる。


 それから地面に落下して転がっていったところを、プテラノドンが容赦なく体重をかけて踏み付け、足の爪で陽助の体を掴んですぐさま空へ飛んでいった。

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