第5話 クロエ、襲来④

「アッハハハハハハハ! あんたたちの体、アイスクリームみたいにくり抜いてあげるね!」と、念力でテーブルスプーンを引き寄せて、興奮気味に言い放つ。


 洸太を相手に、少女は一騎当千の活躍を見せて存分にその力を振るう。嬉々とした表情で生き生きと躍動する様は、まるで公園の遊具で無邪気にはしゃぐ子供のようで、戦いを心の底から楽しんでいた。


 そうして少女が次の攻撃を仕掛けようとしたその時、斜め後ろから洸太がサイコシェルという、強固な念力の壁を張って猛スピードでタックルしようとしてきたので、それに対して少女も同じくサイコシェルを形成して迎え撃つ。双方の波導が激しくぶつかり合い、周囲に強烈な衝撃波が放出された。


「グヘヘヘッ……ん?」と、少女は余裕そうな表情を見せていたが、その直後に陽助も駆け付けてサイコシェルを展開し、二対一で押し込んだことで少女は次第に力負けしていき、「んお? うわぁっ!」と、そのまま押し出されて飛行機の胴体に「ドゴォオオンッ!」と突っ込んで、体が見えなくなる程奥までめり込んでしまった。


「当てる気が無いんじゃねえ。寧ろ当てないように気遣ってんだよ、バーカ」と、陽助が吐き捨てる。


「ありがとう陽助。首、大丈夫か?」


「ああ、なんとかな。それにしても、たかがスプーンで首を切られるなんて」


「どうやらそれが彼女の能力みたいだ。それを使って対象の物を抉り取るっていう」


「ある意味刃物よりも恐ろしいかもな。それがキリスさんの言ってたスキルの更なる力ってやつなのか。厄介な能力だぜ」


「でも逆に言えば、それさえ持たなければ能力は発動しない」


「なるほどな。これで退けたし、取り敢えず一件落着だ。後はさっき逃げた男の行方を早く追わなきゃいけないのだが……」


 と、例の男の捜索に出ようとしたその時、突然機体の方から途轍もない精体反応の増大を察知し、二人が振り返ると機体が痙攣するように「ガタガタ」と小刻みに揺れ始めた。次第に揺れが大きくなっていき、胴体の真ん中あたりに亀裂が走る。


 そしてその亀裂に沿って胴体が「ガシャアアンッ!」という轟音を立てながら、前と後ろに分かれるように真っ二つに裂けた。その避けた箇所から少女が両腕を目一杯横に広げており、彼女の力で機体を二つにしたのだと二人は理解した。


「気ぃ遣った? あたいが女だから手加減してたですってぇ!? 舐めんじゃないわよぉ!」と、先ほどまでの元気溌剌な姿から一転、鬼のような形相で声を荒げる。


「チッ、別に手加減してたわけじゃねえんだけどなぁ……」少女の拡大解釈に困惑してそのように呟く陽助の隣で洸太は、まるで二重人格と思えてしまう程の彼女の極端な感情の落差を見せつけられたことに、ただ無言で目を瞬かせていた。


 すると、別の方向からもう一つの精体反応を感じ取り、洸太と陽助が揃って同じ方向を見る。


「おい、女の子相手に男二人は卑怯じゃないのか?」と、黒のタートルネックセーターに、白のスリーブレスコートを身に着けて知的な雰囲気を漂わせていた男が、自分の身の丈より二倍ほど大きい、ステンレス製のスプーンの持ち手部分を担いでいた。


「これ、クロエのだろう?」


「あぁ! それ、あたいのビッグディッパー! 返して!」と、大好物のお菓子を欲しがる子供のように、早く頂戴と言わんばかりに右手を伸ばしてきたので、男はビッグディッパーと呼ばれるそれを槍投げのように投げ飛ばし、それをクロエが難なく受け取った。


 自分の背丈よりずっと大きいスプーンを持つ姿は、まるで食いしん坊の子供のようだった。

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