第4話 クロエ、襲来③

 スプーンの先を口に入れて付いていた血の味を堪能するように舐めると、息の根を止めるべく陽助の方へ近づいて背中を踏みつける。少女が凶器であるそれを構えて振り下ろすところで洸太が念力を放って動きを封じられた。


 少女は金縛りに遭ったように身体が動かなくなって苦しそうな表情を浮かべたが、すぐに笑みを浮かべて自らも強烈な念力を放出し、洸太の念力を打ち消した。拘束を解いた少女は、怯んだ洸太にターゲットを変更して突撃する。


 交戦した洸太は、彼女がまずどうやって陽助の首を切ったのかを分析していた。彼女が使っていたのは、一般家庭の食事において使用されるいたって普通のテーブルスプーンだった。


 ナイフのように鋭利に仕上がっているわけでもない。だとすれば彼女の剛腕によるものかそれともスキルによるものか。スキルについては、岡部との戦いでその汎用性と可能性、更なる力の覚醒というものをキリスからある程度聞いていたので、そこまで驚きはなかった。


 そうやって思考を巡らせながら、「それっ、それっ、それぇえええい!」と少女が愉快そうに叫び、まるでバドミントンのラケットのようにブンブン振り回すスプーンを懸命に避けていると、洸太はあることに気付いた。


 少女が振り下ろす武器を避けた時、前方の地面が抉られるのを見た。抉られた地面がどこへ消えたのかは分からない。


 これで合点がいった。あの時、陽助は切られたのではなく、首元の皮膚をスプーンで掬い取られたのだと分かり、その上で直接触れずに対象をアイスクリームのように掬い取れるようで、刃物ではなくても、能力の付加によってそれ以上の威力を発揮するというのが、このスキルの恐ろしい特性だった。


 戦闘中に意識を逸らすのは敗北に直結する。洸太の動きが一秒未満と言う短時間だけ止まったところを少女が見逃す筈が無く、絶好のチャンスと読んで頭を狙って勢いよくテーブルスプーンを振るも、すんでのところで洸太が少女の手首を掴まえた。


 洸太は掴んだ少女の手首を思い切り捻ると、それに合わせて少女の身体が空中で一回転して仰向けで地面に倒れ込んだ。スカートが短いせいもあって、中のマイクロスパッツが露わになってしまった。


 手首を捻られた勢いで使っていた武器を手放してしまい、それを洸太が遠くへ蹴り飛ばす。こうして敵である少女を制圧して捕えることに成功した。


「それであたいに勝ったつもり?」と仰向けのまま真顔で訊いてくる。


 洸太が「えっ?」と聞き返すと、少女が洸太の手首を強く掴んで引っ張り、前のめりの姿勢になったところで、仰向けの体勢から、まるでブラジルの国技であるカポエイラのように、下半身を真っ直ぐ上に上げて横に捻って回転して洸太の顔を蹴り飛ばし、それを受けて洸太は数回地面を転がっていった。彼女の蹴りを受ける直前に腕でガードしたため、ダメージは少なくて済んだ。


 洸太がすぐに体勢を立て直すと、もう既に少女が間髪入れずに攻撃を仕掛けて全速力で走って向かって来ている。速度を維持したまま地面を蹴って体が宙に浮き、それからクルっと右に回転して強烈な回し蹴りを繰り出した。


 「ゴンッ」と、あまりの速さに避ける暇もなく咄嗟に両腕で防御したものの、その力強い蹴りに耐え切れず、後方へ勢いよく飛ばされてしまった。


 少女がニヤッと澄ました顔をしていると、いつの間にか復活した陽助が後ろから殴りかかろうとしていた。少女はまるでそれを予測していたかのように、振り返ることなく横に移動して回避し、振り下ろした陽助の拳が空を切る。


「なあにい、その鈍いパンチ。当てる気あるの?」と呆れた風に言うと、手本を見せるかのように殴る体勢を取って「イヒヒヒッ」と笑いながら、拳に存分に力を溜め込んでから陽助を殴り飛ばした。


 「ゴンッ!」と強烈な殴打を受けた陽助は、数メートル後方へ飛んで何回か地面を転げ回った後に止まった。

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