第3話 クロエ、襲来②
それを見た周囲の人々が叫喚し、蜘蛛の子を散らすように四方へ一斉に逃げ出す。その集団の中には背の高い白人男性が一人いて、彼も必死に人波をかき分けて逃げていった。
「んんんんんん~!」と、小さく蹲って堪えるような姿勢で、漲ってくるパワーと溢れんばかりのエネルギーを頭のてっぺんから足の指先まで感じ取って、気持ちよさそうな声を上げながら愉悦に浸っていた。
そうして、シャードの膨大かつ凶悪なエネルギーを全身で堪能した少女は、湧き上がるパワーに目がとろんとし、まるで極上のエステを堪能し終えてリフレッシュしたような、たまらない快感と興奮に満ちた恍惚とした表情をしていた。
「ハアアアアアアアア~。この感覚がたまんないのよねぇ~」
セロトニンの分泌量が増えて自律神経の働きが安定し、血流も良くなって体がリラックスした状態になり、神経伝達物質の一種で、「幸せホルモン」と呼ばれるドーパミンが大量に分泌されて快楽に満ちて興奮状態にある。
そのような最高のコンディションに整った少女とは対照的に、洸太と陽助の二人は、少女が持つ著しく強大な力とその底なしのどす黒い波導を前に、陽助はこれが彼女の本来の力なのかと戦々恐々としていたが、洸太は自分の中で何かが「ドクン」と内側から突き上げる感覚を覚えた。
それは恐怖や怒りとはまた少し異なり、それが何なのか、今はまだはっきりと捉えることはできなかった。
「あれ~? もしかして腰抜かしちゃった? フフッ、まだまだこれからだよ。あたいのこのビッグディッパーで……って、あれ?」と背中に手を伸ばしてみたと思ったら、ある筈の物がないことが分かり、驚愕する。
「嘘ぉ……無い、無い、無いっ! あたいのビッグディッパーがどこにも無い……どっかに落っことしちゃったかなぁ」と焦った様子で周囲の景色を遠目に見たり、地面に落ちていたりしていないかを確認しながら、自分の武器を探し始めた。
「何なんだあいつ」
「陽助、今のうちだ。逃げていった対象の男を早く追ってくれ。その間に僕があいつを引き付ける」
「よし、任せろ」と言って、陽助が跳ぶ態勢を取った瞬間、つい先ほどまで空中に浮遊していた少女が地面に降り立って一仕事終えたようにしゃがんでおり、持っていた小さなスプーンには赤い血が付いていた。その奥では陽助が倒れていて、首から血が勢いよく流れ出ている。
何が起きたのか分からなかった。まるで次のシーンにいきなりスキップしたような感覚。あの離れた場所から陽助の首元を狙って、弾丸のような驚異的なスピードで直進してダイブしていったのだと理解する。
「敵に背を向けちゃだぁーめ。基本中の基本でしょ?」と言い放ち、倒れている陽助を容赦なく蹴り飛ばした。
目では追えない程の素早い動きだった上に、正確に急所を狙う命中率の高さに驚愕するとともに、敵である彼女から指摘を受けた挙句、追い打ちを掛けられるなんてこれ以上ない屈辱だった。
「しょうがないから、これ使おーっと」と言って、右手にテーブルスプーンを持ち、美少女アイドルを気取っているのだろう、笑顔で可愛らしくウインクをして取り繕った。
「スプーン、だって……?」そう言って、血が流れ出る首元を手で押さえて立ち上がろうとする陽助。
「あれ? ちゃんと頸動脈を狙ったつもりだったんだけどなー」そんな陽助を見て、少女が残念そうに言う。陽助が背を向けてその隙に少女が攻撃を仕掛けた際、僅かに左に避けたことで致命傷には至らなかった。
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