第2話 クロエ、襲来①

 そこには、洸太たちと同年代あるいは少し若い細身の西洋人の少女が、空中に浮かんだまま洸太達を見下ろしていた。


 月の光を思わせる月白色げっぱくしょくの肌。肩まで伸びた長い、透き通るような鮮やかなディープスカイブルーの髪をヘアバンドで一本のポニーテールに結っており、襟に大きな赤いリボンを付け、肩ギャザーフリル付きの白のノースリーブブラウスに、丈の短いグレーのミニスカートを着ている。


 また、白黒ボーダー柄のハイソックスと、靴の底が十センチはあるであろう、黒色で厚底のショートブーツを履いており、まさに年頃の女の子といったキュートでガーリーな恰好だった。そんな少女の浮遊している姿を見た人々の間でどよめきが起き、中には悲鳴を上げる者もいた。


「おおおー! 全員助けたんだね。凄いね、二人とも! なんかジーンときちゃった」大声で興奮気味に賞賛の声を上げていたが、声には感情は籠っておらず、寧ろ冷やかしにも聞こえた。


 超知覚エンパスのもう一つの特性は、発達した感知能力及び認知能力により、他の人間の精神体――その者をその者たらしめる精神的なエネルギーやオーラもとい、波導を感じ取れること。数キロ以上離れた位置からでも感知出来て、善性か邪性を瞬間的に見分けられる。


 その上、それらは心と体の強さと密接に関連しており、その者が放つ波導が強大であればある程身体能力が並外れていて、非常に高い戦闘能力を有していることも分かる。


 そして、超知覚エンパスの精度が高まれば高まる程、その者の現在地と距離を正確かつ詳細に割り出すことが出来る。


ドクン


 少女を目にした瞬間に、洸太の中で何かが弾んだ。それは恋心や怒りといった、人間的な感情とは明らかに違うものだった。


≪あれ……? 何だ、この感じ。心の底から急に湧き上がるこの、鼓動というか、衝動というか……≫


 この時、洸太は陽助の方を見て、自分と同じものを感じているかどうかを確認してみたが、特に戸惑っている様子は無かった。


≪陽助の様子に変化は無い。つまり、これは僕にしか分からないものかも知れないということか。多分、気のせいだろう。とりあえず気にしないようにしておこう。とにかく今は、目の前のことに集中しないと≫


 と、一旦頭の片隅に追いやって、我に返る。


 少女が涙をわざとらしく拭う動作をしてみせた後、「さて、感動の瞬間はこれでおしまい! ここからはぁ~……あたいが全員、皆殺しにしてあげる」と、急に人が変わったように目の光が消え、虚ろな表情になって冷酷な口調で言い放ち、いつの間にか親指と人差し指で掴んでいた錠剤をこれ見よがしに見せると、そのまま「あーん」と大きく開けた口に運んで飲んだ。


「陽助、まさかあの錠剤って……」


「ああ、俺たち適合者が服用するエキストリミスだ」


「へぇー、よく知ってるね。じゃあ、これは何か分かるかな~?」と、ポケットから紫色の混じった、不気味に光るそら豆大の黒い鉱石を取り出して、二人によく見えるように手を前に伸ばして見せた。


「まさか、シャード……!」綾川からシャードの詳細について聞かされていたので、知識として知っていたが、実物を見るのはこれが初めてだった。


「せいかーい! じゃあ折角だし、特別にこの力、見せてあげるね」と、装着しているチョーカーの後ろにある、真ん中の窪んでいる部分に合わせて装填した。


 それを検知したチョーカーが認識して点滅した後、「シャード装填確認」と機械的な声が流れた。


 そうして少女が魔女のような悪戯っぽい笑みを浮かべて「バトルモード展開」と言い放ち、その声に反応するように、装填したシャードが猛烈な禍々しい光を発し、途轍もない量のエネルギーが放出されて周囲に衝撃波が迸る。

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