第2話 さようなら、最強の異世界生活
すべてのステータスがSSランク、いわゆる最強クラス。
この値がどれほど希少で、この世界でどれほどの価値と力をもたらすのかは計り知れないが――
少なくとも、俺じゃなければもう少し賢い使い方ができたのではないだろうか?
目を覚ました俺は、薄暗い空間の中、椅子に縛り付けられていた。
「……は?」
うん、何が起こったんだ?
そうだ、俺は確か酒場を出て、ムキムキ男に襲われて――
あぁ思い出した! あの男に気絶させられたのだ。
ではこれは男の仕業なのか? うぅ、もがいても無駄だ、たぶん。
すると、暗い部屋の奥から数人の男たちが歩いてきた。全員が凶悪な目つきをしている。その中心には、俺を直接気絶させた、あの筋骨隆々の男が立っていた。
やばい。今更だけど、厳つすぎて怖い。死にそう。
ちょっと待て、こいつらは何が目的なんだ? 俺が転生者だと知ったとたん、襲い掛かってきたよな。
もしかして、転生者が希少だから、俺を攫った……とか?
「な、何が目的なんですか」
「お前は転生者だろう。この世界に転生者が来ることは、めったにないレアケースなんだ」
「そ、そうなんですね……」
「国の研究者が、転生者たちが持つ異世界の知恵や知識を欲しているんだ。ということで、お前をその連中に売れば、俺らは大儲けできるわけだ。俺らはそういうことを生業としてる」
はああああ!? 俺を売るだとおおお!?
それも、国の研究者!? 確かに、異世界の知恵とかは気になるのかもしれないな。でも俺が提供できることなんて、面倒な授業のサボり方10選だとか、格ゲーの必勝法くらいだぞ! クソほど役に立たねぇ!
「とんでもない、私はまともな情報など持ち得ていません。大した役に立ちませんよ」
「別に俺らはお前が売れればいいからな。その後、お前がどうなるのかは知ったこっちゃねぇ」
「えええ!?」
こいつらプロの思考か? 人身売買のプロなのか!?
少しの躊躇もなく俺を売りに出そうとしてるよ! やばいやばい、逃げないと本気でやばい。魔法ってどうやって放つんだ!?
いや……冷静に考えろ。俺のステータスは攻撃力も9999だ。
こんな縄、腕に力入れただけでぶち切ってやる――
「あ、そうだ。おいお前、こいつのステータスいくつ?」
「おっ……うわ、すげぇ。全部SSランクだぜこいつ。でも、転生者じゃあんまり珍しくねぇかもな」
バレたー!!
なんかモノクルかけた男が、俺の能力値サラッと言いやがったー!!
いわゆる“鑑定”みたいな能力なのか!?
「そんなにステータスが高いんじゃ、逃げちまう危険があるな。おい、こいつに魔法をかけろ」
「はいはーい。だったらオラの魔法に任せてくれ! 知ってるだろ? 逃亡防止のアレさ!」
一人の陽気な男が躍り出ると、俺に向かって片手を伸ばしてきた。
その先端から生み出された光が目に入り、俺は思わず目を瞑ってしまう。
「わっ――!」
「さぁ、お前はどんな魔物になるのかな?」
待て待て待て、魔物にする!? 何言ってんだこいつ!
やめろ、その魔法を止めるんだ! まぶしい……!!
……頭が痛い。
光を浴びた瞬間、俺は一瞬、気を失ってしまっていたようだ。
目を開けると、なんだか世界が大きく見えた。
――なんだこれ、目の前にあるの。人の足か。
えっ、人の足?
何かがおかしい。人間の足元より、俺が小さいことってある? 待て、何が起こった。
ふと起き上がってみたが――なぜか二足歩行ではなく、手が地面についていた。
体を見てみると、全体的に丸い。モフモフの白い毛で体が覆われていて、すごく暖かかった。
待ってこれ。
俺――人間じゃなくなってね?
「きゃははっ。見ろよこいつ! ラビーじゃね?」
「あの最弱のか!? ぎゃははっ!」
「今まで魔物にしてきた人間でも、こんな弱い奴に変わったことはなかったよな!」
頭上から声が聞こえたので、俺は見上げてみる。
すると、まるで10メートルくらいにまで巨大化したような男たちが、俺を見下ろして爆笑していた。
いや……どうやら大きくなっているのはこいつらだけじゃないらしい。さっきまでの椅子も、部屋全体も広すぎる。
この場合、周りが変化したんじゃなくて、俺だけが小さくなったのだろう。
「なっ、え……?」
声だけはまともに出た。
俺は状況を理解できず、周囲を見渡している。
すると先ほど俺に魔法をかけた男が、ニヤニヤと笑いながら顔を覗き込んできた。
「お前さ、自分のステータス見てみろよ。ケケケッ」
「はぁ?」
ステータスに何の変化が起こったというのか。
俺が試しに、「ステータスオン!」と叫んでみると――
攻撃力:33(F)
魔力:36(F)
俊敏性:121(E)
知力:999(C)
運:10(F)
…………
見間違いだろうか。
今、初期設定からすべての桁が違っていた気がしたのだが。
一番高い知力でさえ、十分の一くらいになってなかった?
「は!? え……」
よく見ると、種族の詳細も書かれている。
『ラビー。スライムよりも弱いウサギの魔物。ほぼ確実に一撃で死ぬ。雑魚中の雑魚』
はあああああああああああっ!?
俺、このラビーとかいう魔物になっちまったのか!?
スライムより弱いって、RPGゲーム経験者からしたら相当だぞ!?
男が鏡を持ってくると、その中には、つぶらな瞳を持った、長い耳の子ウサギが映っていた。可愛いね! めっちゃ可愛い! でも雑魚とか不名誉!!
うーわ、マジかよ……。俺の最強のステータス、こんな一瞬で砕かれることある?
「よっしゃ、これでこいつもザコだぜ! 戦えねぇし逃げられねぇ、それでも転生者の知恵だけは残ったカスだ!」
「ちょ、まっ」
「あとはこいつを保管して、売る場所を探すぞ。おい、こいつを捕まえておけ」
すると男の一人が、俺の小柄な体を片手だけで掴み上げた。
やめてっ! マジでやめてっ!!
俺が泣きそうになりながら暴れても、短い手足が宙をバタバタするだけだった。
その後俺は、小さな檻の中に突っ込まれ、まるでペットを運ぶかのごとくどこかへ連れていかれる。
ああああああ嫌だあああああああああああ!!
俺の最高になるはずだった異世界生活があああああああ!!
この詰み確定の人生を救ってくれる者は、今、ここにはいない。
不本意ながら雑魚モンスターになった俺、ボクっ娘科学者と従魔契約で手遅れ 紫煌 みこと @boll
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