不本意ながら雑魚モンスターになった俺、ボクっ娘科学者と従魔契約で手遅れ

紫煌 みこと

第1章「最悪な異世界ライフ、幕を開ける」

第1話 転生者であることは黙っておくべきだった


 俺の素晴らしい異世界生活の幕開けは、開始10分で滅びることになる。





 目が覚めれば、俺は見知らぬ場所にいた。

 暖かな陽光が差し込む部屋。木製のベッドの上で、俺は眠っていたのだ。


「……は?」


 おかしいな。さっき、ちょうど大学で授業を受けていたのに。

 科学の講義があまりにもつまらなくて、ついうたた寝してしまった。もしかしてここ、保健室? いや、まさか。


 俺はゆっくりと起き上がり、窓から外を眺めてみる。

 そして――絶句した。

 歩いている人間たちが、普通の人じゃないのだ。剣を持っていたり、魔法使いみたいなローブを着ていたり。獣人みたいのもいる。明らかに、俺が知る現実世界じゃなかった。


 これ、もしかして異世界転生ってやつか!?

 いや待て。まずは転移か転生か見極めないと。なぜ俺がこんなに冷静かって? だって俺は大学生きってのゲーム廃人なのだ! こんな展開、ゲームや小説で嫌になるほど見てきたさ!(自慢)



 近くにあった鏡で自分の姿を見てみた俺。

 前世とはまるで別人のように変わり果てていた。誰もが振り返るような美貌の青年。知的で品格がある。ちょいとばかり俺の正確には似合わないかな……

 ともかく、これでわかった。この現状は、前世の記憶が残った転生の部類だろう。


 さーて、あと気になるものは……

 この世界にはステータスという概念があるのだろうか?


「ステータスオン! ……的な?」


 これ、何も出てこなかった俺、世界一恥ずかしいことしてるよな。

 そんな俺を裏切ることはなく、空中に水色のウィンドウが出現した。よかった! ステータスが存在してるらしい!


「えーと、俺の能力は……」



 年齢:20

 攻撃力:9999(SS)

 魔力:9999(SS)

 俊敏性:9999(SS)

 知力:9999(SS)

 運:9999(SS)



 ……ん?

 何かの見間違いか?

 今、ものすごい数字が羅列されていたような……


 しかし、何度見てもステータスの殆どを「9999」が占めている。

 これ、俺のスペックか? いくらなんでも最強すぎないか?

 おそらくこの感じだと、この世界の最大値は9999なのだろう。それを最初から俺が持っている。

 しかも俺は絶世のイケメン。ということは……



「俺の時代来たああああああああああああ!!!」


 異世界転生。

 俺の人生、勝ち確です☆





 そうと決まれば、さっそく外に出るぜ!

 どうやら俺がいたのは、街中にある小さな一軒家だったらしい。異世界生活スタートには、ベストな初期地点なんじゃないか?


 案の定、外に出ると人々が俺を見つめ、ざわざわと噂する。

 女性の中には、頬を赤らめている者さえもいた。

 あぁ、さてはこの顔だな? 俺でさえ自惚れそうになったんだ。他人から見たら、まるで生きる宝石のようなんだろう。


 適当な酒場を見つけ、立ち寄った俺。

 これからどう生活するのか考えるために、ひとまず休むことにしたのだ。

 ビールを一杯注文。俺は一人座席に座ったが、隣の冒険者が声をかけてきた。


「やぁ。君も冒険者かい?」


 気前のいい青年のようだ。明るい笑顔で俺に話しかけてきた。

 俺は自分の服装を見つめてみる。足元まである長いローブ。魔法使いか僧侶と勘違いしているのか?

 ともかくここは、魔法使いということで話そう。俺の魔力、9999だったし、嘘にはならんだろう。


「はい。俺は……コホン、私は魔法使いです」


 うーわ、俺ってばめっちゃイケボ。

 俺口調は合わなすぎるから、ちょっと格好つけて話してみよう。


「おぉ、それはちょうどいい! もしよかったら、魔力の数値がいくつか教えてくれないか? 僕、冒険者パーティーのリーダーなんだけど、魔力が高い仲間を増やしたくて探してたんだ」


 おっと、これは冒険者ギルドのイベントか?

 いくらステータスが最強でも、やることがなかったら意味がないからな。所属先があると心強い。

 魔力最高級の俺が介入して、魔物とか、魔王とかいるのかな? そういう奴らをぶっ倒しまくって無双。定番のテンプレ展開、俺が再現できるのでは……?


 いいなそれ! ストレス発散できそうだ! このリーダーさんも優しそうだし。

 俺は笑顔で自分のステータス値を答えた。


「私の魔力は、9999です。SSランク、かな?」

「……えぇええ!? 9999!? 僕が見たことある魔法使いでも、2046だった……君、どうやってそんな能力を得たんだ!?」

「あはは、何せ私、実は転生者で……」



 ――人間は常に謙虚であるべきだ。

 俺はこの言葉で、人生のすべてを終わらすことになるとは思っていなかった。



 軽口のつもりで、転生者とつぶやいた俺。

 俺が青年の顔を窺うと、彼は顔面蒼白になって俺を見つめていた。


「……え……? 今、なんて……」

「え? だから私は転生者だって」

「そ、それは!」

「みなさん、ちょっと聞いてくださいよ。私は転生者なんです」

「おい!」


 青年は慌てた様子で周囲を見渡す。気づくと、酒場のみんなが俺たちを見つめていた。

 驚きのあまり、皆表情が固まっている。

 そうか! きっと、転生者って珍しかったり、羨ましい存在だったりするんだな? 青年が慌てているのは、俺という希少な存在がいるせいで、リーダーの自分が霞んで見えてしまう心配だろう。


 そうかそうか。つい調子に乗りすぎたな。

 能ある鷹は爪を隠すというものだ。この青年のためにも、俺はここを離れよう。冒険者ギルトに所属してしまうと、俺の力を自慢し放題だ。それもひとまずはやめておこうかな。


「おっと、転生者の私が目立ちすぎるのはよくないですね。 とりあえず私はここを出ます」

「や、やめとけ。一人でどこか行くのは。転生者だと、身の守り方だってわからないだろ? 僕らが保護してやるよ」


 ん? 保護……? 急に何を言い出してるのだろうか。

 まぁよくわからないけれど、放っておいていいよな。


「またどこかで会いましょう」

「おい!」


 なんで止めるんだろうか。俺はステータスがチート級の最強だぞ?

 とくに気にせず、俺は酒場から出て行った。





 酒場を出て、のんびりと街道を歩いていると――


「来い」

「はっ――」


 突然、巨大な手に腕を掴まれ、俺は狭い路地裏へと引きずり込まれた。

 誰だ!?

 顔を上げるとそこには――筋骨隆々の、険しい顔つきをした男が立っていた。


 男の顔は赤い。さっきまで酒を飲んでいた匂いがする。


「な、なにするんですか。離してくださいよ」

「お前が転生者というのは本当だな?」

「え……まぁ、そうですけど?」


 すると男は舌なめずりをする。


「よし。少し寝てろ」

「何を――うっ!?」


 突然、みぞおちにものすごい衝撃が走った。

 やべぇ、痛ぇ。蹴られた!? あまりの不意打ちだったので、何の受け身も取れなかった。

 ステータスが最強でも、俺は魔法の出し方も、攻撃手段もない。数字だけじゃどうにもならないのかよっ……!


 まずい、意識が――

 男の姿がぼやける。バサッと布のような音がした。俺に何か被せた……?


 視界が真っ暗になったところで、俺の意識は途切れた。

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