第9話 猫を助けるために壁を壊した件7
ジュドーは恐怖のあまり、シェリーナに向かってナイフを投げつけた。
しかし、結果は信じられないものだった。
「ひいいいいっっ!」
悲鳴を上げるジュドー。
シェリーナにぶつかると思った瞬間、ナイフは跡形もなく消え失せた。
ジュドーは壁に走り、一本のロングソードを手にして構えた。
剣術の心得もあるジュドーだが、剣先は大きく震えている。
「く、来るな! 殺すぞ!」
「殺す? 私を? どうやって?」
ジュドーのロングソードに対し、シェリーナが持つ道具は二本の短いハンマーだ。
距離を取っていれば、ロングソードが圧倒的に有利なのは間違いない。
それでもシェリーナは、無造作にジュドーへ近づく。
「来るなって!」
後ずさりするジュドーだが、もう壁際まで来てしまった。
「ひ、ひいいいい!」
ジュドーは左手で剣を握りながら、壁のナイフを右手で取り、シェリーナに投げつける。
だが、シェリーナに突き刺さる直前でナイフは消滅。
何本投げても消滅する。
「ば、化け物め!」
「化け物? それはあなたでしょう? 猫ちゃんをこんな目に遭わせて」
「来るなよっ!」
「あなたはこの世にいていい存在じゃない。消えるべきです」
「ま、待て!」
ジュドーの目をまっすぐ見つめながら、シェリーナは少しずつ近づく。
「待って! も、もうしない! うん! もうしないから!」
「これまで死んでいった猫はどうなりますか?」
「詫びるから! お願い! 助けて!」
「死んだ猫は、みんなそう思ってましたよ?」
「助けて! もうしないから!」
「あの世で詫びることすら生ぬるいです。あなたの存在を消します」
「待って! 待って!」
もはやジュドーに抵抗の意思はない。
迫るシェリーナを拒否するように、身体の前で両手を大きく振る。
「剣が邪魔ですね」
「は?」
ジュドーはロングソードを持ったまま手を振っていた。
「待って! 待って! 離れ、離れないっ! 剣が離れないんだよっ!」
あまりの恐怖で、ジュドーの筋肉が硬直してしまった。
剣を離したくても指が動かない。
「離れない? それでは消してさしあげます」
「待って! 待っ! ぎゃああああ!」
シェリーナは、ジュドーのロングソードを消滅させた。
それと同時に、左腕の手首も消えている。
「手がぁぁ! 手がぁぁぁぁ!」
「うるさいですね」
「たす、助けて! お願いですぅぅ! 助けてくださいぃぃ!」
「その声が気持ち悪いです。声も消しますね」
「待って! 待ってください! 待ってください!」
シェリーナは両手を動かした。
◇◇◇
俺は全速力で走る。
エリザベータさんの言う通り、もし犯人がジュドーだった場合、危険に晒されるかもしれない。
シェリーナに対して変な気を起こせば、大変なことになる。
そう、危険なのはジュドーだ。
「はあ、はあ! 間に合え!」
人材派遣局で、シェリーナの登録名は『
シェリーナは世にも珍しい二本のハンマーを使用する双鎚使いだ。
双鎚使いなんて、世界で彼女ただ一人しかいない。
だが、その実力は唯一無二だ。
シェリーナは人間の目では捉えきれないほどの猛烈なスピードで、左右からハンマーを繰り出す。
音速を遥かに超える速度に達したハンマーは、魔力を帯びたことで超高温となり、挟み込んだ対象物を一瞬で消滅させる。
その上、魔力の影響で音が発生しない。
双鎚で挟んだものは、無音で消滅していく。
彼女を怒らせてはいけない。
双鎚によって、存在ごと消してしまうから。
「頼む! シェリーナ! 早まるなよ!」
猫の誘拐犯がジュドーだとしても、相応の処罰がある。
シェリーナが怒ると相手を殺してしまう。
さすがに今回はやりすぎだ。
シェリーナのためにも、絶対止めなければならない。
「はあ! はあ!」
第七街区に入った俺は、ジュドーの自宅に到着した。
玄関の鍵が開いていたため、そのまま侵入。
「この臭いは!?」
死臭だ。
強烈な死臭が廊下から漂ってくる。
臭いを辿ると、廊下の壁に穴が開いていた。
「隠し扉か!」
扉の先は、地下へ続く階段だ。
俺は躊躇なく階段を駆け下りた。
猛烈な動物の死臭が立ち込める地下室に、ジュドーと対峙するシェリーナの姿があった。
シェリーナは双鎚を握っている。
そして、ジュドーの左手は消えていた。
「シェリーナ! 待て! 待つんだ!」
だが、俺の制止は届かず、超高速の双鎚が繰り出されてしまった。
次の更新予定
2026年1月19日 15:10
うちのメイドはやりすぎるっっ! 犬斗 @inutoyaiba
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