第7話 猫を助けるために壁を壊した件6

 ◇◇◇


 シェリーナは石壁をノックして、反発や反響音を確認した。

 感触は完全に石で、詰まった硬い音がする。

 不審な点はない。


 他の場所の壁を叩いてみても、同じ感触と音だ。

 しかし、他の場所には隙間がない。

 この部分だけ、僅かな隙間から空気の流れを感じる。


「壁の厚さは全て同じです。でも、ここだけ空気の流れがあるということは、この奥だけが空洞になっていると考えて間違いないでしょう。つまり、この石壁は隠し扉……」


 石壁を見つめながら、呟くシェリーナ。

 先日の新聞記事を思い出した。


「第七街区から、大量の猫が消えた事件がありましたね。ここは第七街区。入れ替わった黒猫。この異臭と、イルマス様の肩についていた灰」


 シェリーナはリビングに戻り、トランクケースからハンマーを取り出した。

 シェリーナが愛用するこのハンマーは、片手で持てるほどの大きさだ。

 だがハンマーヘッドは、一般の物に比べて少し大きい。


 ハンマーは二本あり、シェリーナは左右の手で一本ずつ握りしめる。


「また始末書ですね……」


 再度廊下に出て、石壁の前に立つシェリーナ。

 大きく息を吸い込み、呼吸を止めたシェリーナは、躊躇なく左手のハンマーを振り下ろした。


 石壁に鉄製のハンマーが激しく衝突。

 破壊音が鳴り響くと、石壁に亀裂が走った。

 間髪入れずに、右手のハンマーを振り下ろす。

 豪快な破裂音を立て、石壁は崩れ落ちた。


「やっぱり、隠し通路でした」


 人が屈んで通れるほどの穴の先は、空洞になっている。

 シェリーナが覗き込むと、空洞の先は地下に繋がる階段だった。

 地下から吹く風に乗って、強烈な悪臭が襲いかかる。


「これは……相当な悪臭ですね。臭いで人を殺せるほどです」


 常人なら嘔吐するほどの強烈な悪臭だ。

 しかし、シェリーナは気にせず階段へ進む。

 階段の下からは光が漏れているものの、人の気配はない。


「ランプの光でしょうか?」


 十三段の階段を下りると、地下室に出た。

 誰もいないが、ランプに火が灯っている。

 

 揺らめく炎の光が照らすものは、壁にかけられた様々な大きさのナイフや剣、ペンチや拘束具だ。

 本棚には様々な本やノートが並んでいる。


「え!」


 地下室の中央に置かれている一台の大きなテーブル。

 その上に、無惨に切り刻まれた猫の姿があった。


「く、黒猫ちゃん……」


 シェリーナは声を絞り出し、首だけになった黒猫を見つめる。

 以前、シェリーナが助けた黒猫だ。


「酷すぎるよ……」


 部屋を見渡すと、腰の高さほどの大きな四角い木箱から、猛烈な悪臭が漏れていた。

 シェリーナは無造作に蓋を開ける。

 中には大量の猫の死骸と、それに群がる蛆虫が蠢いていた。


「猫の虐殺……」


 何の目的があって、こんなことをするのだろうか。


 いや、これが目的なのだろう。

 切り刻むことだけが目的の異常者。

 それ以外に考えられない。


 猫を拾って殺す。

 新聞で読んだ猫の失踪は、ジュドーが犯人で間違いない。

 そして、その目的は最も醜悪だった。


 ハンマーを握る手に力が入るシェリーナ。


「あーあー、こんなところに入っちゃったの? しかも、また壁を壊しちゃってさ」


 突然、男の声が地下室に響いた。

 シェリーナは特に焦りもせず、声のする方向にゆっくりと身体を向ける。

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