第3話 猫を助けるために壁を壊した件2

 ランチが終わると、メイドたちがメイド課に戻ってきた。

 何人かのメンバーは、これから仕事へ行くための準備だ。

 今日のシェリーナは派遣業務が入っていないため、自席で書類を作成している。


「シェリーナ、ちょっといい?」

「はい、なんでしょうか?」


 俺は課長席から最も遠い席のシェリーナに声をかけた。


「仕事の依頼だ」

「え? 私ですか?」

「そうだよ。説明するからミーティングルームへ移動しよう」

「はい。分かりました」


 メイド課には、個室が二つある。

 一つは来客用の応接室で、部屋の中央にソファーとローテーブルが置かれ、棚には高価な調度品が並ぶ。

 もう一つはミーティングに使用される簡素な部屋で、大きな会議用のテーブルと折りたたみ椅子しかない。


 俺は椅子を二つ用意して、シェリーナを座らせた。

 そして、テーブルに書類を置く。


「これが書類だよ」

「はい。ありがとうございます」


 書類を手に取り、視線を落とすシェリーナ。


「え? またあのお客様ですか?」

「そうなんだよ。君の仕事ぶりを気に入ったようだね」

「そ、それは嬉しいのですが……」

「壁のことなら先方は気にしてないみたいだ。修理も終わったし問題ないよ」

「分かりました。ありがとうございます」

「依頼回数は二回。初回が三日後で、二回目がその一週間後だ」

「予定を確認しますね」


 シェリーナが手帳を広げた。


 こちらでもメンバーのスケジュールは把握している。

 それに、スケジュールは全てアリッサさんが組み立てているので問題ないはずだ。


「はい。予定は大丈夫です」

「よかった。じゃあ、頼むよ」

「はい。分かりました」


 今回の依頼は、個人宅の清掃と夕飯の作り置きだ。

 この内容であれば、昼過ぎから始めて夕方前に終わる。


「シェリーナ。今回は猫が挟まっても壁を壊さないようにね」

「はい。お客様の自宅は三匹の猫がいますので、気をつけます」

「そうか。三匹もいるのか。それじゃあ大変だ」

「でも、みんな可愛いですから楽しいです。頑張ります」


 メイド課の仕事内容は、当然ながら家事全般だ。

 依頼内容によって料金が変わる。


 契約は基本的に単発のみだ。

 今回のように少ない回数であれば、複数回受け付けることもある。

 また、年に数回ほどのペースであれば、定期的に受け付けることは可能だ。

 しかし、短期間での継続的な契約、長期契約、住み込みの依頼は受けていない。

 理由はメイドたちのスケジュールが拘束されてしまうからだ。

 メイド課としては、広くたくさんの顧客へ派遣を行うことを方針としている。


「じゃあ、依頼内容を確認しよう」


 改めてシェリーナと仕事内容や注意事項を共有し、打ち合わせを終えた。


 ――


 就業時間を迎え、みんな帰宅した。

 派遣先によっては直帰するメンバーもいる。


「さて、もうちょっと頑張ろうかな」


 俺は処理しきれなかった書類仕事を、今日中に片付けるつもりだった。


「あれ? エリザベータさん、まだ帰らないんですか?」


 俺の座席の左正面は、エリザベータさんの机だ。

 いつもなら就業時間と同時に帰る人なのに、今日はまだ残っている。


「そうよ。気になることがあってね」

「そうなんですね。あの、ほどほどに……」

「分かってるわよ。そもそも、私が仕事を残すわけないでしょう? あなたと一緒にしないでくれる?」

「そ、そうですよね。はは」


 仕事を終わらせられなかった俺とは違う。

 氷のように冷たく張り詰めた空気の中、俺は無言で机に向かった。


 怖すぎる……。

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