3. 透明な絶望

俺はその依頼書を、ゆっくりと握りつぶした。 怒りではない。もっと冷たく、重い何かが胃の腑に落ちていく感覚だった。


あれは「解決」なのだろうか? 確かに息子は見つかった。母親は安心した。効率という面で見れば、あの少年探偵は完璧だ。俺が三日かけてやることを、彼は三秒でやった。


だが、そこには「過程」がない。 息子がなぜ借金をしたのか、その苦悩にどう向き合うべきか、母親がどう声をかけるべきか。そうした人間的な泥臭いドラマ、本来なら俺が調査の過程で拾い上げ、依頼人に手渡すべき「真実の重み」が、デジタルの光で消し飛ばされてしまった。


俺は椅子に深く沈み込む。 俺の技術――聞き込みのテクニック、足跡の分析、嘘を見抜く会話術。それらすべてが、もはや骨董品ですらない。ただの「無駄な時間」になってしまったのだ。


「俺は、何のためにここにいるんだ?」


問いかけても、答えは事務所の壁に吸い込まれるだけだ。 世の中は「正解」を急ぎすぎている。謎は即座に解かれるべきエラーであり、不思議はバグとして処理される。 そこには余韻も、情緒も、反省もない。ただ、結果だけがある。


俺は、自分が世界から切り離されたような疎外感を覚えた。 まるで、高速道路の真ん中で、一人だけ徒歩で旅をしているようだ。周りの車は猛スピードで目的地へ着く。俺だけが排気ガスにまみれ、意味もなく歩いている。


これは絶望というよりも、もっと乾いた「無常」だった。 俺という存在意義が、音もなく風化していく。

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