後編
おーっほっほっほ!どうも。改めて自己紹介を。
私は大蔵蓮花。皆様には「お嬢」と呼ばれ親しまれていますわ。
私の家は少々有名どころなんですけど――まぁ色々なことがありまして、私は1人田舎の高校に通うことになりました。
この学では私を「お金持ち」と扱っても「大蔵家」としては扱わない。ある意味、私にとっては理想の場所でした。
そんな生活が3ヶ月ほど。私もこの暮らしに慣れてきまして、そしていい出会いもありましたわ。
「お嬢ってやっぱお笑い番組でもめっちゃ笑うタイプ?」
お隣の席になった小倉陸さん。私によく話しかけてくれる人。皆さん沢山話しかけてくれますけど、彼はその中でも少し変わっています。
「虫苦手なの?やっぱ見た目?トラウマ?」「エビって心臓が頭にあるらしいよ。」「好きな物は先に食べる派?」「この漫画読んでみてよ。」
謎の質問やら、驚かすつもりでの頓珍漢な言動も目立ちましたが、良い人ではありました。
なにより、私自身に興味を持つ。ある意味珍しい方でもありました。
周りの方よりも私自身を見ているというか、お金も大蔵のところを見ていない、興味がないという感じでしょうか。
わたくしの何かを探るような感じでしたが、でも信用できて素直に好印象な方でした。
「ならこれ行かない?」
だから、そう言われて出された2枚のチケットを見たときはついつい残念で、一瞬言葉がでませんでした。
わたくし、恋愛というものに憧れはあります。だけどそれの叶うような身分ではありませんでした。物語なら、大抵お姫様と結ばれる男性はかっこよく階段をのぼってきてくれるものですが、大蔵家という家は階段などでなく直角にできた壁。最初からこちらに産まれた方としか結ばれることはない、そういうものでした。
だから告白なんて言う儀式は虚しいだけのもので、それにわたくしの名前に価値を見出したという表明で、それは真実の愛なんてものはないという証明だった。
叶いもしなければ、敵いもしない、そんな現実を突きつけられるだけの鬱陶しいものです。
だから、この学校に来て少しの平穏に安らぎを得ていた私には残念なお誘いでした。
今までデートに誘っていただいたことはいくらでもあります。年の離れたお方とも参りましたし、同級生の方ともありました。
そんなところにわざわざ行っていたのはどこかまだ自分の中で信じたいものがあったのかもしれません。だけど二回目なんて一度もありませんでした。
大人すらわたくしに本気で媚びてくる。ナルシスト全開な方々の方がまだ面白かった。
まぁ、大蔵家相手にナルシストを続けられる人なんてそれはそれでお断りのような人しかいませんけれど。
なのでこの誘いは正直残念なところでしたわ。
この学校ではそういう事とは離れていたかった、無縁でいられるとは思っていなかったですけれどそれでも、特によく思っていた人からなのはあまり歓迎できるものではありません。
でも、わたくしは弱い人間ですので、これをお断りすることはできませんでしたわ。すぐに了承させていただきました。
当時は、なんとなく――いえ、しっかりと彼を意識していつも以上におめかしをしましたわ。
わたくしがよく告白されるのはこの見た目もありますから。ある意味これは餞別のための衣装ともいえましょう。
デートは普通に始まりましたわ。
正直言ってすごく楽しかったですわ。
初めて同じ視線で楽しんだ。シンプルにそれが楽しくうれしかったですわ。
お化け屋敷で一緒に叫ぶ、いたずらのように私に激辛ラーメンを食べさせる。それを頑張って食べきる。
あの時の表情は今も思い出します。よく笑うわたくしですけど、笑うのを我慢できなかったのは生まれて初めてだったかもしれないですわね。
その後地元の方が営む小さなお店にいったり、甘い物を食べにいったり、初めてのことばかりでした。
だから、この時間が来るのは残念でしたの。
駅、というには今まで私が見てきた人に溢れた場所とは全然違う、小さくて駅としての機能以外取り払っただけの場所。
次の電車までの少しの時間。きっとここだ。
いつも男性というのは決まったタイミングだ。
ダメとは言いませんが、妙に一辺倒。綺麗な夜景、プレゼント、別れ際、例を出せばキリがないですけど、数をこなせばタイミングというのはわかる。
だからせめてと、ドンと構えていましたわ。
「え?いやしないけど?」
そう言われた時、わたくしはどんなお顔をしていたのでしょうか。
彼は驚いた顔をしたあと、誤魔化すように笑いましたけど、わたくしはとても恥ずかしかった。
でも、どうにもそれに安心して、嬉しい気持ちもありましたの。きっと情緒不安定というもになっていたでしょうね。
そのあとは電車を逃してしまいまして2人で夕暮れの公園に行きましたの。特等席みたいなブランコに乗りました。
沢山話しましたわ。
今までのことも、今日のことも。わたくしの辿って来た人生も、彼の辿ってきた人生も。
初めてでしたの、聞かれたこともありました。話すこともありました。でも話したくなったのも聞きたくなったのも初めてでしたの。
それがどんなに素晴らしことか、きっと彼は気づいていないのでしょう。
時計の針は落下するように速く動いて、気づけば使用人が終わりの時間を告げにきました。
せめてもの抵抗で、彼をお家まで送り届けました。善意なんてものでなく、ただわたくしがおしゃべりをしたいというわがままでしたわ。
でも彼は言ってくれましたの。
「また、遊ぼうね。」
そう言ってくれましたの。嬉しすぎて大きな声が出てしまいましたわ。
そうですわね、これがいわゆる「馴れ初め」というやつでしょう。
でもこれはその言葉通り、初めですわ。それから彼は本当に沢山遊びに誘ってくれました。
夏になれば川遊びに誘ってくれましたわ。時にはクラスメイトの方たちとバーベキューもしました。肝試しもして、映画も見に行って、祭りに行って、彼は田舎なんてこんなくらいしかないというように言っていましたが、わたくしにはこれより楽しいものを知りませんでしたわ。
それに影響を受けてか、わたくしはかなり表情豊かになったと思います。元々よく笑っていましたけどね。
笑いは人生の栄養ですけど、心の底から笑わなければ意味はなかった。
だから、怒るときはいっぱい怒るようにしましたし、悲しい時はいっぱい泣くことにしました。当然、嬉しい時は今まで以上によく笑いました。
あとはくだらないことにも気づきました。
真実の愛なんてない。でも欲しい愛はありましたの。
告白されたくないなんて言っていたのに、当の本人が愛されたくなって告白したくなったんですから。
告白は大変だったか?
おーっほっほっほ!わたくしがもじもじと悩むわけないでしょう!
……1週間は早いですわよね?
ということで、なんとか手に入れましたわよ。それはもう大変でしたわよね。
彼はあっさりわたくしのものになろうとしてくれたんですが、そういえばそれが難しいからわたくしは愛から距離を取っていたんでしたわね。
お父様たちと戦うのは大変でしたがこれ以上話すと長くなりすぎますわね。
だって……「あなた」はもうわたくしの物ですからね。
「いや、懐かしかったね。いや本当に。」
「そうですわね。陸。」
「ああ、お嬢。」
「あら、思い出に浸ってますの?」
「懐かしくてね。蓮花との思い出は。」
「ふふ、そうですわね。」
もう、なんども味わった彼の胸の中。いつ行っても暖かく迎え入れてくれる。私の居場所。
「ようやく手に入れましたわ。」
「確かに表情はよく変わるようになった。」
「そうですか?」
「最初は君の色んなとこを見たくて最初は近づいたんだよね。特にいつも笑ってたとこ以外を。こうして色々なとこを見せてくれるとは、僕もここまで来たんだね。」
「ふふ、少し違いますわ。見せたんじゃなくて、あなたが変えてくれた。いや作ってくれた顔ですわ。」
「それでいて、相変わらず君は大きな声でいつも笑ってる。」
「おーっほっほっほ!もちろんですわ!」
まぁ私たちは結婚しましたわ。
うれしいものです。案外結婚というのは書類を出してあっという間というか、これから色々とあるんでしょうけど日常は変わらないですわ。それでも、その日常が更に幸せになりましたの。こんなに幸せな夜も初めてですわ。
「さて、陸。夫婦として、最初の夜ですわね。」
「う、うん。」
「少し楽しんでしまいましょうか。」
「そうだね。」
まぁわたくし達はそんなにお行儀なんてよくないもので、清きお付き合いなんてものは随分前に忘れましたけど。
「ああ、本当にあなたと結ばれてよかった。」
「僕もだよ。」
わたくしのよく笑えるようになった人生は、とても愛おしいものになりまた。めでたしめでたし、と言い切れますわね。
こんな幸せな夜はないだろう。
「おーっほっほっほ、お゛ほ゛ッ!? 」
「(この顔は、あまり見たくなかったとは言えないな。)」
おーっほっほっほ(オホ声) 三重知貴 @tomotaka1001
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