第2話  こいつ人間じゃないかも



 チリン!


 ドアベルが激しく鳴って、階段をドタドタと駆け上がる音が聞こえる。


 なんだなんだ?と俺は覗くと、そこには日とを抱えた近所に住んでるカズトキがいた。


 「どうした!」


 咥えたタバコを消した。



 「シンさん!ちょっとこの子見て!」


 どうやらこの白髪のガキは、診療所ここの通りの川から流されてきたらしい。


 川に溺れるガキ……夏の風物詩だなんて思いながら、ベッドに寝かせる。



 「救急車呼びます?」


 カズトキが尋ねたが、俺はここで処置した方が良いって判断で止めさせた。別にこの白髪の親から医療費取るためじゃないからなガハハ。



 「とりあえずバイタル見ようか」



 機械を張り付けてみると、



 「血圧、体温、脈拍、呼吸、リンは問題ないね、気絶してるだけだよ。なんか気を失うようなことあった?」


 「……結構大きめな魚をそのまま吐き出してました…」


 「そりゃ気失うわ」


 なんかペンギンみたいだと思っていると、輪の値が急激に上がっていった。


 「嘘だろ!こいつぶっ壊れたか?」


 「どうしたの!?」


 普通、輪は気の流れなので死にそうになったときに下がることはあるが、上がることはあまりない。


 「…これじゃあ術師じゃねえか」


 初め機械が故障したかと思ったが、これは先月交換したばかりだ。


 

 患者の輪はみるみる上昇し、一般的な術師の値の2倍程まで上がった。


 すると、患者はガバッと起き上がり、手首に張り付けている機械を発作的に取り外した。


 「うわあ!チューブ……じゃないか」


 彼は周囲を見渡すと、カズトキに、


 「僕寝てた?」


 「いきなり倒れて、とりあえず近くの診療所に運んだけど…」


 「は!救急車呼んでないよね!?」


 「う、うん…この人が見てくれたんだ」


 俺に会話のボールが飛んできた。


 「あー…まー俺が見るほうが早いし良いかなーって考えて…、ところでなんか救急車に怯えてないか?なんだ昔ひかれたトラウマかw?」



 「いやー僕、研究所から逃げ出してきてさ、そういうの呼ばれたら連れていかれちゃうんだよね」



 突如室内のテレビのニュースで、岡崎研究所というのが火災にあったと流れた。


 その火災は負傷者20人を伴ったという。


 彼は、そうそう、ここから逃げ出したんだよねー、と軽く言っているが、カズトキと隅で話す。


 「これやばくね……ニュースの火災も実は嘘で……」


 「まさか研究所の職員を殺して……」


 非現実な現状に戸惑う。


 「と りあえず!カズトキ!お前ん家広いだろ、こいつ入れてやれ」


 「え!まって!?逃げるんですか!」


 「いーやおまえの家で様子を見るのが良いと思うんだ!まあ何かあったら俺に連絡しろ、電話でな!」


 俺は急いで二人を追い出した。輪があの値は異常だ。まじで研究所から……?なんか服もそれっぽかったし、人間じゃないかもな……通報しとこうかな。いや めんどい、したかったらあいつが勝手にしてくれるだろ。




 


 バン! と扉を閉められた。俺はシンさんにこの逃げ出した子を押し付けられたように感じた。


 ああいう頼りになるかわからない大人にはなりたくないと思った。


 「俺の家ここから近いから」


 「まじで!?かくまってくれるの!?まじ感謝!」


 話しも通じるし、そんなに悪いやつじゃないのかな。



 玄関にたどり着くと、彼の腹がグゥーと鳴った。


 「何か食う?」


 彼は笑顔で激しくうなずいた。


 家には基本祖父しかいない。というか家族が祖父しかいない。


 「ジーちゃん!友達家に上げるね!」


 「好きにしー」


 祖父の声は家の奥から聞こえた。


 「入って良いよ」


 「お邪魔しま~す」


 俺らは台所へと向かい、戸棚からインスタントのカップ麺を取り出して、二人分作った。


 「そういえば君名前は?俺はカズトキ」


 「僕はアラタ!」


 聞いて良いか分からないが勇気を振り絞って聞いてみた。


 「研究所から逃げ出したってあれは……?君は何者なの?」


 「なんか研究されてて、生きてる間ずっとあそこにいたんだよね。それでなんか逃げ出す機会があって……あれ?どう逃げたんだっけ」


 「そう……なるほど……」


 全く理解できないが、刺激するのは怖い。シンさんは通報したのだろうか?さすがにしてくれているか……。


 「あ、3分たった。どうぞ」


 彼に割りばしとカップ麺をあげた。


 小さいテーブルと、二脚の背もたれのない椅子。麺も空気も熱い。


 「いただきまーす!!……うまい!」


 アラタは麺の熱さを感じないかのような大きい一口だ。


 アラタを見ていると服が少し濡れていることが気になった。夏だから乾くのも早いが、さすがにこのままじゃいけない。


 「服濡れてるよね、俺の貸すよ?」


 彼はまた感謝を言った。


 俺らはすぐにカップ麺を完食し、俺の部屋に行った。タンスの下の段はもうほとんど着ていない服がある。ヨレヨレのシャツ達、まさかこんなところで使うとは。


 「助かったよー!ありがとう!」


 「俺この後食材買いにいくけど大丈夫?」


 「もちろん!留守番もおまか……」


 アラタの目はいきなり焦点があわなくなり、放心状態?なものになった。


 「お、おい…大丈夫か?」


 「僕もついていっていい?」


 「え、別にいいけど……」


 突然のことに驚いた。内心殺されるかと思った。


 家を出て、再びあの橋を渡ろうとしたとき、



 「まって、こっちはやめとこう」


 「え?何で」


 「なんかいる」


 怖いこと言うなよ……俺らは少し遠回りして、町の商店街へと向かった。


 商店街の入り口には城周街と大きく書かれたアーチが立っている。



 「おーここが!すごい人だ!!」


 「初めて?」


 「こういうところに来るのは初めてなんだ!」


 目的の店に着くまでにいくつか他の店の前を通るのだが、その度に目を輝かせて覗いていた。


 

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