第六章 プーさんは人気者

 優司は、教室の扉を開け、中へと入った。目に飛び込んできたのは、プーさんの席を囲む生徒たちの姿だった。


 その生徒たちは楽しげにプーさんと談笑を行っている。プーさんは、にこやかにジョークを振り撒き。その度に湧き起こる笑い声。


 運動会が終わり、代休が明けて三日ほどが経っていた。劇的な活躍をみせたプーさんは、それまでの腫れ物に触るような扱いとは打って変わって、凄まじい人気者となっていた。


 終日、必ず誰かはプーさんのそばにいた。必ず誰かが話しかけ、プーさんと関ろうとしていた。まるでブレイクしたアイドルのような扱いだった。


 運動会で活躍したとはいえ、あまりにも劇的過ぎた。プーさんには、人を惹きつける魔力のようなものが備わっているのかもしれない。そんな感じがした。


 「おはよう。プーさんの人気すごいね」


 自分の席に向かう途中、友秀が話しかけてくる。優司がプーさんに注いでいる視線の意味を理解したのだろう。


 「おはよう。そうだね。まるで芸能人みたいだ」


 プーさんを囲んでいる生徒たちから、一際大きな笑い声が発せられる。その声には、媚びと崇拝の感情が入り混じっていた。


 優司は、友秀と一緒に自分の席に行く。すると、そこにはすでに佳代が待っていた。隣には春奈もいる。


 「おはよ。そろそろ国語のテストだね」


 佳代は、今度ある国語のテストについて言及した。


 「うん。嫌になっちゃう」


 優司は、成績が悪かった場合における母の般若のような顔を思い出した。母の由美は、神経質に非難を行うだろう。想像するとうんざりした。


 「友秀君は今回も余裕かな?」


 春奈が澄んだ瞳で友秀を見て言う。友秀はたちまち頬を染め、あたふたと眼鏡のズレを直した。


 「ま、まあ、そうかもね。国語のテストくらいは……」


 「さすが友秀君。頭いいもんね」


 春奈は、顔の前で手を合わせ百合のような笑顔を向けた。友秀は照れたように頭を掻く。


 春奈が言及したように、友秀は成績優秀の生徒だ。四年生での成績は学年トップクラスで、五年生に上がった現在も、これまで行われたテストでは、ほとんど満点を取っている。


 「羨ましいな。友秀君は頭良くて。私なんか、この前の算数のテストが悲惨で、お母さんからゲンコツ食らったんだよ」


 佳代は、まるで今ゲンコツを食らったかのように、頭を押さえ、痛そうに顔を歪めた。それがコミカルな仕草だったので、他の三人は笑う。


 「だけどそれにしても――」


 佳代は表情を戻すと、くりくりとした目をプーさんのほうへ向けた。


 「プーさん人気者になったね」


 アイドルのように生徒たちに囲まれているプーさんを見ながら、佳代はぼそりと呟いた。佳代もプーさんの待遇の変化に驚いているらしい。


 「まさに躍進だよ。運動会という晴れ舞台でヒーローになったから」


 優司は、プーさんの勇猛かつパワフルな活躍を思い出しながら首肯した。


 あの時のプーさんは確かに凄かった。あまりにも常軌を逸した身体能力だった。オリンピックに出ても、金メダル間違いなしではないだろうか。


 もっとも、プーさんが人ではないのは確実なので、オリンピックに出場できるか怪しいところではあるが。


 しかし、あの身体能力は、脅威とも言える特徴だ。我々小学生が束になって喧嘩したとしても、容易に蹴散らされるのは必至だ。


 プーさんの優れた身体能力が、今後、裏目に出なければいいのだが。

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