第四章 プーさんは有名人

 翌日の朝、優司は早めに登校を行った。そして、教室に着くなり、いの一番に友秀に昨夜の出来事を話した。


 教室にはプーさんの姿は見えず、まだ登校してきていないことがわかる。それは、友人の恭也や佳代も同じだった。


 普段よりも相当早く登校してきたため、教室の中は、少し雰囲気が違って見えた。クラスにいる生徒たちもごく少数で、何だか違うクラスに入った気分になる。


 優司の話を聞いた小柄な友人は、はっとした顔になった。


 「それ、僕のお母さんも同じだよ。あと、お父さんも。プーさんの話をしたら、羨ましいって口を揃えて言ってた」


 「友秀の家も?」


 意外の感に打たれる。由美だけの反応かと思っていたら、他の大人も同様らしい。思えば、担任の柏谷先生もプーさんに対して、特別な感情を抱いてる様子をみせていた。


 「……プーさんって何者だろう?」


 優司は腕を組み、ぼんやりと呟く。異質な容姿を持つ転校生という属性のみならず、不可思議な知名度を有する存在なのだ。得体の知れない恐怖を感じてしまう。


 そこで二人の元に、津高孝太郎がやってきた。


 「どうした優司。今日はやけに早いじゃないか。友秀は……いつもどおりだな」


 孝太郎は人当たりの良さそうな端正な顔に、爽やかな笑顔を浮かべていた。


 優司は肩をすくめる。


 「まあ、ちょっとね」


 「何かあったのか?」


 孝太郎は眉根を寄せた。二人の間に流れる微妙な空気を感じ取ったらしい。


 優司は友秀と顔を見合わせたのち、孝太郎にも話すことにした


 話を聞いた孝太郎は、腕を組んで頷く。バスケ部らしく、細長い腕だった。


 「なるほど。プーさんがね」


 「どういうわけか、お父さんもお母さんもプーさんのことを知っているみたいで、しかも誉めるんだよ」


 友秀が、長身の孝太郎を見上げながら昨夜の話をする。二人とも身長差が大きいので、こうして見ると兄弟のように見えた。


 孝太郎はバスケのクラブに参加していることもあってか、身長が高く、しかも運動神経も抜群で、体育の授業でいつも活躍していた。


 今度ある運動会でも、皆の注目を集めることは必至だろう。


 「芸能人の子供とか?」


 「うーん、そんなんじゃないと思うけど」


 友秀の話や、母の反応を見る限り、背後関係などが原因ではなく、プーさん本人に価値を見出しているようであった。


 「不思議な話だね」


 孝太郎が、訝しげに首を捻る。


 その直後、教室の扉が開き、プーさんが入ってきた。自然と三人の視線が、プーさんに吸い寄せられた。


 プーさんは昨日と同じく、楽しげに微笑みながら机に着いた。そして、ランドセルを下ろし、教科書を机の中に収めていた。


 やはり誰も話しかけようとしない。しかし、プーさんは楽しそうだ。


 三人はプーさんの姿を眺めながら、押し黙っていた。


 やがて、恭也や佳代が登校してくる。その頃には、プーさんは前を向いてじっと座っていた。プーさんの実態を知らないと、本当に椅子に座っているだけのぬいぐるみにしか見えなかった。


 優司は、プーさんから目をそらした。


 そのあとは、恭也や佳代たちも加わって、『朝の会』が始まるまで雑談を行った。


 今日もプーさんはずっと独りでいるのかもしれない。いや、これからずっと一人なのかもしれない。優司はそう思った。



 しかし、その予想は、すぐに覆されることになる。


 発端は、リハーサルを重ね、本番となった運動会当日での出来事だった。

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