第2話 お持ち帰り

 あるて先輩に連れられて近くにあるダーツバーにやってきた。こんなところに入るのは初めてだ。ちょっとドキドキする。


「きんちょーしてる?だいじょうぶだいじょうぶ。ぼったくられたりなんかしないよー」


 あるて先輩はバーカウンターのマスターさんに気軽に手を振っている。向こうも手を振り返してきた。こういうところに慣れてるんだなぁ。


「ダーツはいいよぉ。なんかぴゅーんてとんでぐさってしてすっきりするの!」


 僕たちのダーツエリアにはテーブルがあって、その先にダーツの的がある。ダーツを手に取ってみたけど、針じゃなくてプラスチックになってた。なるほどなって思った。


「したことある?」


「すみません。ないです」


「じゃあはじめてだ!お姉さんが教えてあげるよ!ふふふ」


 そういうと先輩がダーツを持って、的に向かってひゅっと投げた。真ん中に当たった。


「やった!」


「すごい!」


「でしょー。じゃあやってみてよ」


 ダーツを手渡される。一瞬触れた手が柔らかくて少し冷たかった。女性の手に触れたのは初めてですこし戸惑った。俺も見よう見まねで投げてみる。


「ありゃ?!」


「あーざんねん。どんまい案件だね」


 ダーツは的から外れて、床に落ちた。なんかかっこ悪くて惨めな気持ちになった。


「まあ最初は誰だってうまく行かないから!気にしちゃダメ!何度でもチャレンジ!」


「そうですか。でも……」


「まあまあ。構えて。大丈夫。お姉さんに任せなさい。手の扱いには慣れてるの!ぬふふ」


 なんか怪し気に笑われるけど、言われたとおりに構える。そこにアルテ先輩の手が伸びてくる。


「え?ちょっと」


「いいから。こういう子に触れるのは慣れてるから」


 アルテ先輩の手が俺の構えを修正していく。手首の角度を何処か真剣に見ていた。そして。


「まだちょっと震えてるね。えい!」


 アルテ先輩が後ろから抱き着いてきた。背中にやわらかくてすごくふっくらした感触が走った。心臓が高鳴る。そしてアルテ先輩は俺の両手に後ろから手を伸ばして矯正してくる。そして。


「じゃあいっしょにやろうね」


「え、あ、はい!」


「それ!」


 アルテ先輩と一緒に手を振った。するとダーツは真ん中の円のエリアの中に入った。


「やった!」


「きゃあ!すごいすごい!上手だね!」


 アルテ先輩が手を叩いている。嬉しそうに喜んでいる。なんかほっこりする。そして嬉しさから我に返ると、こんな美人と二人でこんなところにいることに気恥ずかしさを覚えた。その後先輩とダーツを投げ続けた。


「ここにはよく来るんですか?」


「うん。いろんなこと来たよー。ダーツの投げ方でその人がどんな風に人を扱うかわかるようになるくらいに。ダーツの投げ方下手な人は乱暴な人が多かったなぁ」


 何処か寂しそうにそう言った。確かにそうかもしれない。男性とかそういう傾向ありそう。


「君はダーツ優しく扱うから可愛いと思う!」


「かわいいって。男なんですけど」


「かわいいのはいいことだよ!ふふふ」


 魅力的な笑顔だ。褒められて嬉しい。だけど自分がうまく転がされてるような気もする。


「そういえばなまえは?」


「湊谷久遠です」


「くおんくん。なんかかわいいね。私はあるてだよー」


 知ってました。噂は色々聞いたし。


「大学どう?面白くなりそう?」


「わかんないです。でもさっき楽しくなくなりました」


「あーそうだねぇ。うん。まあわたしも好きな人他の女の子に取られたことあるからわかるよー。私の方が先に好きだったのになぁ」


 同じ傷がある。それがなんか嬉しかった。共感がこんなに心地いいなんて。


「だから絶対に他のいい男つかまえてやるって思って頑張ってたけど、まあ上手くいかなかったなぁ……失敗ばかり……」


 噂じゃ遊んでるって話なのに。本当は本気で恋愛頑張ってるのか。でも上手くいかない。なんか可哀そうだな。


「あー!もう!やめやめ!飲んで忘れるぞお!!」


 アルテ先輩はカウンターにお酒を取りに行った。後姿もセクシー。そしてビールのピッチャー持って帰ってきた。


「わけないからね!!」


「いやいらないですからね」


 アルテ先輩は一人でごくごくビールピッチャーを飲む。そして鼻歌を歌いながらダーツを投げる。真ん中に当たると笑顔で本気で嬉しがる。それを見ているのが俺にも楽しかった。

















 そして結構遅くまでダーツやって、店から出た。俺たちは六本木のイルミネーションがあるあたりを一緒に歩く。


「あーなんだろう。ふしぎー」


「どうかしたんですか?」


「いつもより綺麗に見えるのイルミネーションが、見慣れてるんだけどなぁ、あ、きゃ?!」


 アルテ先輩が足をも釣らせて俺に倒れ込んできた。俺はとっさに受け止める。


「あ、ありがとうー」


「いいえ。大丈夫ですか?」


「ちょっと足もつれだけ」


 俺はアルテ先輩の足元を見る。片方サンダルが脱げていた。近くに落ちていた。俺はそれを拾いに行く。そしてアルテ先輩の足元にしゃがんで履かせた。そのサンダルは不思議だった。バンドが透明で、イルミネーションの光をよく反射していた。その灯に目が眩みそうになる。


「ごめんねー。でも気が利くね。うれしいなぁ。男の子って基本気がきないのにね。こんなこと他の子にしてもらったことないなー。嬉しい」


 アルテ先輩が酔って赤くなった顔で微笑んでくれた。そして二人でイルミネーションを楽しんだ。なんかスマホでツーショット撮ったりした。なんだろう。楽しい。すごく。


「ひっく!」


 なんかしゃっくりしてる。そして俺の肩に手を当ててくる。


「あー少し休ませてー」


「で、でも。あーどうぞ」


 もうすぐ終電だ。だけどこのままだと逃しちゃう。かと言って先輩を放っておけないだろう。それはよくない。アルテ先輩は俺の肩におでこをつけてもたれかかってくる。


「うん。少し楽になったかな。ありがとー」


「いいえ。どういたしまして」


「ところで大丈夫?電車?」


「え?あーまあほら。漫画喫茶とかあるんで」


「逃しちゃった?ごめん私のせいだね。ひっく!ううっ」


「本当に大丈夫ですか?」


「うーん休みたい」


「うちは近いんですか?」


「近いよー……近いけど……あーしょうがないか、まあ何時ものことだし」


 そう言うとあるて先輩は俺の背中にもたれかかる。


「なにしてるんですか?」


「おぶってー!!」


「ええ?!」


「もうあるけないーおぶってー!!」


 背中にくっついてくる。困った。だけど仕方ない。周りに注目されてる。俺は先輩をおんぶした。そして先輩が肩越しに手を伸ばして指さす。


「私の家はあっち!!」


「お、おう……」


 送ってけってことかよ。俺はそのまま背負って歩く。先輩は曲がり角に差し掛かるたびに指先を変えた。というか背中に当たる胸も、抱えている太ももも異次元の感触過ぎてやばい。先輩はこういうのに慣れてるんだろうけど、俺はかなりいっぱいいっぱいだった。


「ここがわたしのまんしょんー」


 そしてオートロックを先輩がカギで開けて、エレベーターに乗る。そのまま部屋まで連れて行った。


「降りてくださいよ」


「やだーべっとまでー!」


 先輩は玄関でサンダルだけ脱いだ。俺も靴を脱いで、部屋の奥のベットに向かう。そして先輩をベットに降ろす。


「うんーありがとー」


「じゃあ俺は帰りますね」


「え?帰れないでしょ?」


「ま、まあ。漫画喫茶行くんで」


「それなら一緒に寝る?大丈夫だよ。わたしは他の人とこのベットで寝るの慣れてるからね。それにあったかいよぉ。人と一緒に寝る方が」


 先輩はそう言って両手を広げる。え?いや。あれ?これってそういうこと?だけどそれは……。


「じゃあ床だけ借りてもいいですか?」


「床でいいの?」


「その。そういうのは。良くないと思います」


「……そう。そうなんだ。みんな私と寝たがるのにね。君はいい子なんだね……ふふふ」


 俺は床に横になる。先輩は天井をしばらくぼーっと寂しそうに見ていた。


「おやすみなさい。あるてせんぱい」


「うん。おやすみー」


 そして俺たちは目を瞑った。

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ビッチでエッチなアルテ先輩の誘惑 万和彁了 @muteki_succubus

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