初めて合コンに誘われた俺が、マルチの本を燃やした話。(後編)

彼女からまた飲み会に誘われた。


今回はSさんの友達とハロウィン会があるらしい。ハロウィン会ってなんだ。そういう不特定多数が集まる季節イベントはたいがい怪しい。

自分の友達も紹介してほしいと言われたので、最初に一緒に行った先輩を誘って行った。その先輩は自分と彼女の切ろうとしても切れない関係にウンザリしていて、いい加減にしてくれと苦笑いしていた。自分もこれで嫌になったらさすがに縁を切りますと約束した。


そして、Sさんと合流しその場所に向かうと、自分と先輩の顔はぐにゃ〜のカイジのように歪められた。

ハメられた!!そう確信するには十分な場所だった。自分と同じくらいの歳の人が20〜30人いる。イメージはサークルの演奏会等の後のOB打ち上げ(レセプション)に近い。そしてこれと似た集会に参加したことが前にあることを思い出した。社会人1年目のとき、久しぶりに連絡してきた大学時代の知り合い(友人ってまでいかないのがポイント)に誘われたクリスマス会と全く一緒なのだ。

逃げ出してやろうと思ったができない。会費を払うとコップにあだ名を書いてと言われる。こういう会に限ってあだ名を要求される。なぜ初対面の人間にあだ名で呼ばれる必要があるんだ?お前らに呼ばれたいあだ名はないんだよ。


コップに苗字を書いたらテーブルに立たされ、自己紹介を言わされる。自分の会社とSEであることを話すと、俺も一緒だよと次々と声が上がる。

なんで同じ会社の奴らが何人もいるんだ!?こんなもん会社で規制しろよ!

先輩は明らかに引き攣っていて、ここの人間と誰とも会話しないよう死んだ顔でやり過ごしていた。一方、自分は体だけ保とうと無理な相槌だけ打って飲めない酒をガブガブ飲んでいた。(あとは、床に落ちたソーセージを食べるなどの奇行で気を紛らわせた。)

この二人は周りからも浮いているようで話しかけるようなことはあんまりなかった。周りも盛り上がっていたので、このコミュニティへの罵詈雑言を大声で話しても問題なかった。ここにいる連中は頭おかしい!早く帰らせてほしい!助けてくれ!そんなことを叫んでも誰も気に留める人はいなかった。


次第に二人は部屋の片隅に移動していた。自分はこの中に自分と同じような被害者がいるんじゃないかという一抹の希望を信じ、まず同じ会社の男性にに話しかけた。「誰から誘われたんですか?こんな所にきて楽しいんですか?」そう聞くと、彼は笑顔が溶けたような顔をして、こう答えた。

「すごく楽しいですよ〜逆に何が不安なんですか〜?」

そして、彼は先輩の肩をおもむろに触り始めた。やられた!!!こいつも洗脳されていた!!(これがこのパーティー内で1番怖かった。怪談の類に近い。)

すぐに会話を切り出し、今度はどうみても輪に馴染めていなさそうな男に近づき同じことを聞いてみた。

「ここにいる皆が軽い知り合いみたいなもんですよ。」

どわ〜〜〜!!!もうダメだ!!!そこは自分と先輩以外味方が誰一人いない空間だった。


そのとき最近買ったチェキを持っていたので、こうなったら潜入捜査ということにしようと現場の写真を撮り始めた。とても普通のパーティー参加者としてふるまえる状況ではなかった。


することもなくなって片隅で怯えている2人にSさんがバツの悪そうな顔をして話しかけてきた。

ビックリしたのが彼女はこの後に及んで知り合いを紹介してほしいと頼んできたことだ。こっちはとっくに縁を切る覚悟に踏み込んでいるというのに。自分は地団太を踏みながら、あなた方馴れ合い連中と違って僕は一生閉じたコミュニティで孤独に生きていきますと宣言をした。

そうすると、

「そんなんじゃ今後彼女も友達もできなくなるけどいいの?」

と聞いてくる。

うるせーよ、こんな連中のつるむくらいなら、一人で死んだ方がマシじゃ。もういいです、勘弁してくださいと、もはや半べそをかきそうになりながら孤独に生き孤独に死ぬことを宣言した。

なんで彼女はこんなにも人を紹介してほしいと言うのだろう。答えは会の最後に言った視界の挨拶にあった。

「これからも色んな人を誘って大きな会にしていきましょう!!」

自分は大きな会を作って上で何をするのか、その目的を知りたかった。でもそのパーティーでこの盛り上がりがどこに向かうか一切提示がない。目的のない熱狂。

そしてだからこそSさんは本心で誘っているんじゃなくて、この環境のノリによって言わされているんだなと納得ができた。


会が終わった瞬間、自分と先輩は一目散に逃げだした。ここまで異常な空間だともはや分かりあえないと悟った彼らは牙をむいて、自分たちを狂信する神への供物にする可能性すらある。ひとまず呼び止められることなく逃げることはできた。

彼らは自分がいなくなった瞬間自分らのことを笑って肴にしているのだろうか。そんなことを考えつつ、電車に乗っているとどんどん気持ち悪くなってきた。これ多分酒のせいだ。いつも飲み会で2~3杯しか飲まないのだが、その日は明らかにキャパオーバーしていた。途中の駅で降りてすかさずトイレに向かう。吐くことはなかったが、洗面台にうつる顔がもう真っ白で青ざめてしまった。


先輩と別れた自分は小雨に降られながら尾崎豊の「僕が僕であるために」を聴いた。こんな状況にピッタリの歌だ。今思うと自分に酔っていたとしか考えられないがどうしようもない。不気味なコミュニティから外れた自分は自分に酔うことでしか自分を守れなかった。


家に帰ってすぐに彼女への絶縁を言い渡す長文を書き上げた。

ただ連絡先をブロックするだけでもよかったが、ハロウィン会で変な感じになってしまったことの謝罪、自分が抱いていたそのコミュニティへの不信感、もう二度と自分を誘わないでほしいということ、これらを長文で書いた。

なぜかというと、Sさんと話した時間が楽しかったことを伝えた上で、彼女がコミュニティを広げるという行為に罪悪感を持たせたいと思ったからだ。Sさんはこれから関係の薄い人を唐突に誘って、そのたびにその人たちを傷つけていくのだろう。それ自体はもう止められないのだけど、その行為にはどうか罪の意識をもってほしいと思って書いていた。

文章を一方的に送りつけてブロックした。


一息ついてふと机の端をみると「金持ち父さん貧乏父さん」に表紙に書いてあった著者のロバートキヨサキと目が合った。

「チャンスをみすみす逃すようなお前は労働者の方が様になってるよ」

とこちらを笑っているように見える。


元はといえば、全部お前が悪いんだろ!!!とかっとなって、すぐさまそれをガスコンロの上に置いて点火した。少しずつ歪んでいく本の表紙をみて薄気味悪い笑みを浮かべながら写真を撮る。


燃えが広がっていくどんどん煙がわいてくる。ちょっと吸っただけでこれは絶対吸ったらアカンやつだと、すぐさま窓を開けて換気した。それでも煙は立ち込め部屋中に変なにおいがする。

本もほとんど燃え終わり、ガスコンロが灰だらけになっていた。とりあえず掃除しようとその灰をビニール袋にかき集める。一旦玄関に置こうとすると、まだ灰が熱かったらしく玄関に灰が一気にぶちまかれた。も~~~などうしてこんなことになったんだ?泣きたい気分だ。


ひとしきり掃除が終わったら、もう空は明るくなっていた。今度こそやることはないだろうとベッドで横になる。

まだ部屋中煙臭かった。

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