第11話 葛藤の夜:罪悪感と解放

​【葛藤の夜:罪悪感と解放】


​食後、ベランダから見える夜景を二人で眺めた。

仙台の夜風は冷たいけれど、隣にあるキミ君の体温がそれを打ち消してくれる。

ふんわりと香る甘い蜜みの様なキミ君に吸いよせられて、あぁ私がカブトムシなんだなって苦笑い。


​ふとした沈黙のなか、胸の奥で重たい石のような罪悪感が首をもたげた。

私は既婚者だ。夫がどうあれ、家族に嘘をつき、新幹線に乗って、10歳も年下の青年の部屋にいる。

私は、とんでもないことをしているのではないか。

​「……ねぇ、キミ君。私、本当はここに来ちゃいけなかったのかもしれない」

ぽつりと漏れた言葉。

​キミ君は何も言わず、私の肩を自分の方へ引き寄せた。

「……自分を責めてる?」

「……分からない。でも、こんなに優しくされる資格なんて、私にはない気がして」

​キミ君は私の手をとり、指先に自分の指を絡めた。

絡んだ指先の間から、キミ君の温もり、緊張感、それでいて微かな不安感までも伝わってくる。

キミ君も私と同じなんだ…

同じ様に今の私を求めてくれているんだ…

「資格なんて関係ないよ。俺が、君に会いたかった。君が笑ってくれるのが、俺の幸せなんだ。……今は、全部忘れて俺だけを見て。いいでしょ?」

一瞬見せたキミ君の不安げな瞳。

「俺もさーちゃんを失うのが怖い」と言葉を逃した。


​その真っ直ぐな瞳に、私は抗えなかった。

片方の手にあった携帯を強く握りしめて鞄に押し込んだ。

悪い女だと思われてもいい。この温もりを、一度知ってしまった心はもう、あの氷のような家には戻りたがっていなかった。

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