第12話 回想から現実へ:青空の下で
【回想から現実へ:青空の下で】
……それから、どれほどの月日が流れただろう。
あの初めての夜から、私たちは何度もこの駅で会い、何度も別れを惜しんだ。
密やかなやり取り、許されない逢瀬。
けれど、今日という日は、これまでの「秘密の旅」とは違う。
私はもう、嘘をつく自分を捨ててきた。
しわくちゃになった手紙は、彼に宛てて書いた決意の言葉。
夫との関係を終わらせ、全てを失ってでも、私は「キミ君のいる世界」を選んだ。
ふと顔を上げると、改札の向こうから、あの時と同じ、少し赤みがかったサラサラの髪を揺らして歩いてくる人影が見えた。
かつての初対面のような不安はない。
ただ、震えるほどの歓喜と、これからの覚悟があるだけ。
「……キミ君」
声には出さず、その名を呼ぶ。
近づいてくる彼の足取りが、私を見つけて速くなる。
悲しいくらいに青い空の下、私は彼に向かって、一歩を踏み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます