第12話 回想から現実へ:青空の下で

​【回想から現実へ:青空の下で】


​……それから、どれほどの月日が流れただろう。

​あの初めての夜から、私たちは何度もこの駅で会い、何度も別れを惜しんだ。

密やかなやり取り、許されない逢瀬。

けれど、今日という日は、これまでの「秘密の旅」とは違う。

​私はもう、嘘をつく自分を捨ててきた。

しわくちゃになった手紙は、彼に宛てて書いた決意の言葉。

夫との関係を終わらせ、全てを失ってでも、私は「キミ君のいる世界」を選んだ。

​ふと顔を上げると、改札の向こうから、あの時と同じ、少し赤みがかったサラサラの髪を揺らして歩いてくる人影が見えた。

かつての初対面のような不安はない。

ただ、震えるほどの歓喜と、これからの覚悟があるだけ。

​「……キミ君」

​声には出さず、その名を呼ぶ。

近づいてくる彼の足取りが、私を見つけて速くなる。

悲しいくらいに青い空の下、私は彼に向かって、一歩を踏み出した。

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