第24話 積み上げるもの
訓練場の空気は、鉄の匂いが濃かった。
朝の剣の音がひと段落し、
騎士たちがそれぞれの持ち場へ戻っていく。
その喧騒から少し離れた場所――
騎士団の倉庫の奥で、
マアヤは一人、腰を下ろしていた。
目の前に並んでいるのは、
折れた剣。
刃こぼれした剣。
ひびの入った刃。
いずれも、実戦や訓練で役目を終えたものだ。
(……ちょうどいい)
マアヤは、一本の剣を手に取る。
使えないから、ここにある。
だが――
(素材としては、十分だ)
虚属性の訓練は、
ひたすら神経を削る。
だからこそ、
もう一つの“地味な鍛錬”も同時に進める必要があった。
基礎魔法。
属性に関係なく、
誰でも使える魔法。
錬成。
洗浄。
身体強化。
原作でも、
序盤から中盤にかけて
じわじわと効いてくる要素だった。
(鍛え方は……)
これも、答えは単純だ。
(使う)
(ひたすら、使う)
マアヤは、折れた剣を地面に置き、
手をかざした。
「……錬成」
魔力を流し込む。
素材の状態を、
頭の中で“理解”する。
鉄の質。
刃の欠損。
歪み。
それらを一度、
“ほどく”イメージ。
そして――
組み直す。
剣として。
魔力が、
ゆっくりと刃に染み込んでいく。
ぎし、と小さな音。
折れていた部分が、
溶けるように繋がり、
形を取り戻していく。
「……っ」
集中力が削られる。
虚属性とは違う疲労。
じわじわと、
魔力が抜けていく感覚。
やがて。
一本の剣が、
そこにあった。
新品ではない。
だが、
確かに使える剣だ。
「……成功した、か」
マアヤは、息を吐いた。
すぐに次へ移る。
刃こぼれした剣。
ひび割れた剣。
一本ずつ、
丁寧に錬成をかけていく。
失敗もある
形が歪む。
刃が薄くなりすぎる。
だが、それでも。
(……問題ない)
錬成は、
完璧である必要はない。
必要なのは、
回数だ。
ゲームでもそうだった。
初期の錬成は、
出来の悪い装備ばかり。
だが、
数を重ねるうちに、
自然と精度が上がっていく。
(……虚で避ける)
(剣で受ける)
(錬成で備える)
すべてが、
一本の線で繋がっていく。
マアヤは、
作り上げた剣を並べ、
静かに見つめた。
(……派手じゃない)
英雄みたいな力もない。
一撃必殺の魔法もない。
だが。
(……生き残るには、十分だ)
壊れたものを、
使える形に戻す。
それは、
自分自身の在り方にも似ている。
才能がなかった前世。
死ぬだけだった原作。
それでも、
積み上げれば、
形にはなる。
倉庫の奥で、
七歳の少年は、
誰にも知られずに剣を作り続けていた。
虚で逃げ、
剣で守り、
錬成で備える。
そのすべてが、
来たる“あの日”に向けた準備だった。
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