第14話 虚の名
鑑定の儀は、粛々と進んでいった。
会場中央に据えられた魔法陣。
七歳の子供が一人ずつ、その中へと進み出る。
「次、第三皇女――
アイリス・アリステア」
名を呼ばれた瞬間、
周囲の空気がわずかに引き締まった。
金色の髪を揺らし、
幼いながらも凛とした足取りで、
アイリスが魔法陣の中央に立つ。
係員が呪文を唱えると、
魔法陣が淡く光り――
次の瞬間。
紫電が走った。
「――雷属性!」
発表と同時に、
ざわめきが広がる。
「やはりか…」
「皇族にふさわしい」
「将来有望だな」
アイリスは、静かに一礼し、
何事もなかったかのように戻っていく。
(……原作通り)
マアヤは、心の中で小さく息を吐いた。
次に呼ばれたのは――
「伯爵令嬢、
ナルーシャ・ハルンドル」
赤髪の少女が、少し誇らしげに歩み出る。
魔法陣が再び光り、
今度は――
燃え上がる炎。
「――炎属性!」
拍手が起こる。
「名家の血だな」
「戦向きだ」
ナルーシャは胸を張り、
当然の結果だと言わんばかりに席へ戻った。
そして――
「次、エルド・トルメリア」
平民の少年。
だが、どこか落ち着いた表情で、
エルドは魔法陣に立つ。
詮索するような視線が、集まった。
「……平民か?」
「みたいだな。だがかなり魔力量が多い。何者だ?」
呪文が唱えられた、その瞬間。
会場の空気が、変わった。
魔法陣から溢れ出したのは、
眩いまでの白い光。
あまりの強さに、
思わず目を細める者もいる。
「――光属性!」
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
どよめきが爆発した。
「光だと!?」
「希少属性……!」
「過去の英雄が持っていた属性だ!」
「平民から、光……?」
興奮。
驚愕。
期待。
エルドは、少し戸惑いながらも、
深く一礼した。
(……やっぱりな)
マアヤは、静かに頷く。
これも、原作通りだ。
会場は一気に熱を帯び、
その後も鑑定は続いていく。
水。
土。
草。
雷。
貴族の子も、平民の子も、
それぞれの属性が次々と判定されていった。
――そして。
「次、マアヤ・レオンハルト」
名を呼ばれた瞬間、
マアヤは一歩、前へ出た。
父の視線を背に感じながら、
魔法陣の中央に立つ。
(……来たな)
心臓は、静かだった。
恐怖も、期待もない。
ただ、覚悟だけがある。
係員が呪文を唱える。
魔法陣が、光る。
―いや。
光らない。
代わりに、
何かが、吸い込まれていくような感覚。
空気が、沈む。
魔法陣の光が、
まるで“消されていく”かのように、薄れていく。
「……?」
係員が、言葉を失う。
次の瞬間。
魔法陣の中心に、
ぽっかりと――空間の穴が生まれた。
色がない。
属性の兆しが、ない。
あるのは、
“無”。
「……これは……」
ざわめきが、戸惑いへと変わる。
係員は、震える声で告げた。
「鑑定結果――
虚属性」
一拍。
そして――
会場は、騒然となった。
「虚……?」
「聞いたことがない!」
「希少属性……いや、虚なんて前例がないぞ!」
「魔法陣が……消えた……?」
驚愕。
困惑。
不安。
さきほどまでの熱狂が、
一気に凍りついたかのようだった。
マアヤは、ただ静かに立っていた。
(……まあ、原作通りか、)
英雄の光でもない。
分かりやすい力でもない。
世界にとって、
最も厄介な答え。
虚。
――才能を否定する属性。
ざわめきの中で、
マアヤは心の中で、ひとつだけ呟いた。
(これでいい)
これが、自分の力だ。
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