第13話 思い出したくなかったこと
帝都は、やはり別格だった。
馬車の窓から見える街並みは、
伯爵領とは比べものにならないほど密集し、
石造りの建物が整然と並んでいる。
「……すごい」
思わず、そんな言葉が漏れた。
父は軽く頷く。
「ここが、帝国の中心だ」
やがて馬車は、ひときわ大きな建物の前で止まった。
白い石で造られた円形の施設。
――鑑定の儀の会場。
同い年の子供たちと、その保護者が次々と集まっている。
貴族も、平民も、ここでは同列だ。
マアヤは馬車を降り、周囲を見渡した。
(……この感じ)
胸の奥に、既視感が広がる。
そして――
「あ……」
視界の先で、
見覚えのある姿が、三つ重なった。
淡い金色の髪を揺らし、
凛とした佇まいの少女。
第三皇女――アイリス・アリステア。
雷属性。
その隣には、
燃えるような赤髪の少女。
伯爵令嬢――ナルーシャ・ハルンドル。
炎属性。
そして、少し離れた位置に立つ、
平民らしい服装の少年。
穏やかな顔立ち。
だが、どこか芯のある眼差し。
――エルド・トルメリア。
光属性。
(……ああ)
喉の奥が、ひくりと鳴った。
(間違いない)
ここは、
『魔法と剣のアリステア』の世界だ。
ゲーム画面で何度も見た光景が、
今、現実として目の前にある。
マアヤは、無意識にこめかみを押さえた。
(……やめろ)
だが、記憶は容赦なく蘇る。
――原作のマアヤ。
この場で、
アイリスを一目見て――
(……一目惚れ)
いや、正確には。
(即プロポーズ)
しかも。
(断られても、しつこく)
(しつこく、しつこく……)
頭の中に、
黒歴史がフルカラーで再生される。
『僕と結婚してください!』
『皇女様でも関係ありません!』
『必ず幸せにします!』
(――――やめろ!!)
思わず、頭が痛くなった。
七歳の身体で、
中身は元オタク。
羞恥心だけが、無駄に大人だ。
(あれは……)
(俺じゃない)
(俺じゃないからな!?)
必死に、心の中で否定する。
だが、事実として――
原作のマアヤは、
その場で確実に“やらかしている”。
父が、ちらりとこちらを見る。
「どうした? 顔色が悪いぞ」
「……だいじょうぶです」
嘘ではない。
死ぬほど恥ずかしいだけだ。
幸い、今の自分は何もしていない。
まだ、何も始まっていない。
(……頼むから)
(俺の番が来るまで、何も起こんないでくれ)
そんな祈りが通じたのか、
会場の中央に、白衣を着た役人が進み出た。
「これより――」
よく通る声が、会場に響く。
「鑑定の儀を執り行う」
ざわめきが、徐々に静まっていく。
子供たちは整列し、
保護者は一歩後ろに下がる。
マアヤは、前へ進みながら、
もう一度だけ、アイリスたちの方を見た。
彼女たちは、知らない。
この場にいる一人の少年が、
原作では――ただの“厄介者”だったことを。
(……今回は)
(何も壊さない)
(いや、壊すのは――)
(俺の死亡フラグだけだ)
そう心に決めた、その時。
「それでは――
鑑定を開始する」
会場の空気が、張り詰めた。
運命の儀式が、
今まさに始まろうとしていた。
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