ウィークエンド
凪 志織
土曜日(日曜日)
今日は土曜日が来るはずだった。
なのに、今、私の目の前にいるのは日曜日だった。
一瞬、日曜日が曜日を間違えて来てしまったのかと思ったが、曜日たちが自分の日を間違えてくるなんてことはこれまで一度もなかったし、目の前の日曜日の姿からしても勘違いで来てしまった様子ではなかった。
「やあ」と日曜日が気まずそうに挨拶した。
柔らかい栗色の髪の毛が太陽の光を浴びてきらきらしている。
「入ってもいいかな」と日曜日は言った。
私は、どうぞと彼を玄関から家の中へ招き入れた。
日曜日はいつものように窓際に置かれたテーブルの席に腰かけた。
神妙な面持ちをしているが、大人用の椅子は彼にとっては大きいようで宙に浮いた足をぶらぶらと落ち着きなく動かしていた。
日曜日と出会って十数年たつのにその身長と幼い顔つきは全く変わらない。
私は日曜日専用のグラスにオレンジジュースを入れて彼に出した。
そして、いつものように日曜日の向かいに座り読みかけの本を開いた。
こんなときに、これが正しい行動なのかわからなかったが、今は、本を開くという行動以外に選択肢を思いつかなかった。
「土曜日、いなくなっちゃった」日曜日が言った。
「そう」と私は答えた。
土曜日が消えた。
手もとのミステリー小説以上にミステリーな状況に私は考えることを放棄していた。
「こんなことはじめてだからどうしたらいいのかわからなくて」
日曜日は泣き出しそうだった。
「もう一週間を六日間にしちゃえば」
私はなぐさめるつもりで言ってみた。
「無理だよ。だって一週間は七日間って決まってるんだもん」
月曜日から日曜日まで、それぞれの曜日が毎日欠かさず訪れる。
等しくすべてのものたちへ。
それが曜日たちのルールだ。
私の土曜日が消えたということは、
「私の世界は終わるのかな」
日曜日がはっと顔を上げた。
「週末だけに終末ってことで、アハハ」
暗い空気を変えようと今まであまり言ったことのない冗談を言ってみた。
「させない!そんなこと絶対に。君の世界はまだ終わらせない!」
日曜日がぽろぽろと涙を流し始めた。
ああ、と思った。
私は日曜日の隣に座り彼の頭をなでながら、慣れないことはするもんじゃないと反省した。
次の更新予定
2025年12月28日 22:00
ウィークエンド 凪 志織 @nagishiori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ウィークエンドの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます