Ep8.甘美な男


部屋へ続く廊下はひどく静かで、杏華の浅い呼吸も、躊躇いがちな足音も、全て絨毯に吸い込まれていった。


一番奥のドアの前で清水が立ち止まり、カードキーをかざす。

小さく鳴った開錠音がやけに大きく響いた。

清水はドアを押さえ、視線だけで杏華に先に入るよう促す。


杏華は小さな歩幅で部屋の中へ踏み込むけれど、その先へ踏み出す勇気が出ない。


廊下の奥に続く部屋の、大きな窓の向こうでは綺麗な夜景が揺れているのに、今の杏華には何ひとつ気休めにならなかった。


閉まったドアの重い音が、逃げ道を完全に塞いだように響いた。


背後で衣擦れの音がして振り返ると、清水はスーツのジャケットを脱ぎ、そばのオープンクローゼットへ掛けていた。

次に差し出された手へ、杏華は自分のコートをそっと脱いで預ける。

無言なのに、全てを掌握されているような気分だ。


清水が室内の奥へ歩き出しても尚、杏華の足はすくんだように動かない。


——やっぱり、このまま出て行ってしまおうか。

背後のドアが存在を主張している。


けれど、そのまま立ち尽くす杏華に気づいた清水が振り返り、数歩戻ってきた。


そしてそっと手首に触れる。


たったそれだけで指先がぴくりと震え、胸がじんわり熱を帯びる。


「来い」


掴まれるわけでも、強引に引かれるわけでもない。

それなのに、低く落とされた声と手首に触れた指先のわずかな圧だけで、足が勝手に前へ出ていた。


室内には間接照明だけが落ちていて、広いベッドの枕元をやわらかい光が縁取っている。

それは普通の光景のはずなのに、今はやけに艶かしいと感じてしまう。


ベッドのそばまで来たところで清水が手を離し、ゆっくりと振り返った。

熱を含んだ視線がまっすぐ降りてきて、杏華は思わず目線を落とす。


「杏華」


名前を呼ばれただけで、肩がぴくりと跳ねた。

あまりに甘く、艶を含んだ声。

雰囲気作りだと分かっていても、その響きだけで胸の奥がじわりと熱を帯びる。


おそるおそる顔を上げると、溢れそうな熱をたたえた瞳に射抜かれた。


伸ばされた指が、頬にかかる髪を耳の後ろへさらりと払う。

指先が耳殻をかすめた瞬間、その一点だけがじんと焼けつくように熱くなった。


フェイスラインをゆっくりなぞった手が、顎をすくい上げる。

わずかに顔を上向かされ、唇の輪郭を親指が掠めるようになぞった。


その焦れったさに、やたらと瞬きが増えてしまう。

怯えにも似たざわつきと、抗いがたい引力とが、胸の内側で同時に膨らんでいった。


気づけば、杏華の指先は清水のシャツの胸元にそっと触れていた。


布越しにも分かる硬さに驚いた瞬間、清水の表情がわずかに変わる。


顔が傾き、吐息が触れる距離まで近づく。


——来る。


そう思った途端、胸がきゅっと縮み、杏華は反射的に目を閉じた。


「……っ」


触れた唇は、一瞬で離れる。

熱だけ残して距離を空けられ、わずかな沈黙のあと——再び、唇が重なった。


最初は浅く啄むような口づけ。

けれど、やわらかな圧が唇を割り舌先が触れた瞬間、腰をぐっと引き寄せられ、息が詰まるほど深いキスへ変わる。


微かなタバコの香りが舌の奥に溶け込み、男気をまとったその味に酔わされる。


「……ん……はぁっ……」


息継ぎの隙間から漏れる声が、自分のものとは思えないほど甘く空気に溶けていく。


清水は口端から頬へ、首筋から鎖骨へと唇を移しながら、腰のラインを大きな掌でなぞった。

吐息ごと肌に刻みつけるように、じわじわと熱を染み込ませてくる。


服の上から撫でられているだけなのに、触れられたところから順番に力が抜けていく。


「……ん……きもち……い…」


こぼれた言葉は、ほとんど溜息と変わらない。


清水の腕にこもる力が、ほんの少しだけ増した。


そのまま腰を支えられ、ベッドの上へと誘導される。

柔らかなマットレスが背中を受け止め、清水が静かに見下ろした。


首筋に降りてきた唇が、皮膚をかすめるたびに小さな火花みたいな熱が走る。

うっとりとした息が漏れたところで、清水の気配がふと遠のく。


離れていく気配に、思わずシャツを掴んでいた。


「ん……もっと……」


自分でも驚くほど素直な声が出てしまい、瞬時に頬が熱くなる。


「……仕方のないやつだな。どうなっても知らないぞ」


低い声のくすぐりに、胸の奥がさらに深くざわめいた。


「…んんぅ……」


再び深く唇を塞がれながら、指先が胸の曲線をなぞり、腰骨から太ももへと滑り落ちていく。


「……触れにくいな」


独り言のように呟いたあとで、スカートのジッパーを下ろす小さな音がする。


腰に添えられた手に促されるまま、杏華はそっと腰を浮かせた。

布が脚を滑り落ちていき、ストッキングも丁寧に外されると、下着だけが心許なく残る。


あられもない格好になり反射的に膝を寄せ合うけれど、そのささやかな抵抗さえ、清水は見逃さない。


鼠径部に触れた指が拒む隙を与えない温度で脚の間へ滑り込み、大きく開脚させる。

頭には羞恥があるのに、下着に覆われた秘所は何かを期待するように疼く。


下着越しに指でなぞられ、杏華は目を閉じて吐息を零した。

けれど、核心に届きそうで届かない場所ばかりを円を描くように撫でられ、そのたびに下腹部の奥で小さな泡が弾けるような痺れが立ちのぼる。


「……っふ……」


焦れた感覚に耐えきれず、腰がほんの少し揺れた瞬間、清水の目が愉快そうに細くなった。


「じれったいのか?」


からかうような声音に、言葉で返す余裕などない。

杏華はただ、縋るように視線を上げる。


「言わないと分からない」


核心を外したまま、指先はまた外側へ逃げる。


「どうしてほしい?」


言わなければ、この意地悪な指は本当にこのまま焦れったい動きを続けてしまいそうで、杏華は思い切って唇を開いた。


「……さわ、って……」


「触っているだろう。どこを触ってほしい?」


逃げ場のない問いかけに、羞恥が一気に全身を駆け上がる。

それでも、疼きのほうが勝ってしまう。


「……っ、もっと……下……」


顔を背け、ほとんど聞き取れない声で言うと、鼻で笑うような気配が落ちた。


「ああ、ここはまだ触っていなかったな」


下着の上から中心を押さえつけられ、一定のリズムで押し当てられる。

そのたびに甘いものがじわじわとせり上がり、腰が勝手に動いてしまう。


「…しみず、さん……っ」


それでもまだどこかもどかしい感覚に、縋るように名前を呼んだ。


「…直接、触って……」


「ふっ。ちゃんと言えるじゃないか」


満足げな吐息のあと、下着が引き抜かれた。


指先が、熱を溜め込んだ部分をそっとなぞる。


「…っ、あ……」


ただ外をなぞっているだけなのに、奥のほうまでぎゅっと掴まれたように縮こまる。


割れ目を何度か上下していた指がゆっくりと中へ沈んでいき、内側から壁を押しひろげる。


「……んあぁっ……! ……んっ、は……」


骨ばった硬い指が中を踊ると、堪えきれずに声が跳ねた。

そのまま唇を塞がれ、逃げ場を失った息が喉の奥で熱へと変わっていく。


指の動きを徐々に速めながら、一番気持ちいい場所を的確に攻め立てられる。


「……んっ、あぁッ……!」


電気を流されたみたいに全身が跳ね上がり、つま先まで痙攣したように震えた後、脱力してシーツに沈みこんだ。


「もう達ったのか。……感じやすいんだな」


耳元に落ちた声が妙に冷静で、頬がさらに熱を帯びる。


「…ちが…っ……私、今…っ、酔って…るから……」


自分でも分かるくらい、可愛げのない言い訳だった。

それに、酔いなんてものはとっくに冷めている。


そのくせ、敏感になった部分をもう一度そっと撫でられただけで身体が悦んでしまう。


「…ん……あぁ……」


「酔いのせいにしたいなら、そうすればいい」


突き放すような言葉なのに、その声色はどこか笑っていて、余裕が悔しい。


「普段は気丈な君が、こんなになるなんて。……そそられる」


淫らな言葉の響きにぞわりと背筋をなぞられる。


「こっちも構ってやらないとな」


ブラウス越しに胸のふくらみを撫で、大きな手が形を確かめ堪能するように這う。

中心を挟むような動きに変わると、さっきまで下半身に集中していた熱が、胸の方へ引き寄せられていく。


「ここも見せろ」


背中に手がかかると、杏華は条件反射のように上半身を起こした。


裾を捲られ、布が肌を滑る。

普段なら何でもない感触が今はやけに生々しくて、肌が粟立った。


清水の視線が胸元に落ち、思わず腕で隠そうとした瞬間その手首をそっと掴まれ、やんわりと押しのけられる。


「なぜ隠す?」


穏やかでありながら、逃げ場を与えない問い。


「……そんなに見ないで……」


「見るに決まっているだろう」


口元だけで笑いながら、ブラを親指で押し下げる。

露わになった頂を指先が捉えた途端、鋭い快感が昇ってくる。


「…んっ、しみずさ、ぁん……」


胸の芯を撫でられるたび、甘えるような声が喉までせり上がる。


「そんな声で誘って。……悪い子だ」


背中を滑った指がホックを外すと、肩口からストラップが落ち、柔らかな双丘がふわりとこぼれた。


「…んっ、あぁっ……」


頂を指で転がされ、もう片方の手が全体を掬い上げるように揉みしだく。

杏華は耐えきれず背を反らせ、片手を後ろについて支えた。

清水はその背中を支えるように掌を回し、ぐっと引き寄せる。

そのまま、芯を持ち始めた頂を口に含まれた。


「……あっ……んん……」


濡れた舌が敏感な部分をなぞり、音を立てて吸い上げる。

耳に届くその水音が、感覚をさらに鋭くした。

胸を味わう唇と舌に翻弄されながら、再び指先が下へ滑り込む。

二つの刺激が絡み合い、どちらに意識を向ければいいのか分からなくなる。


「…っ…ま、た……き、ちゃ…っ…あぁっ……!」


頭が真っ白になり、身体を弓なりに仰けながら二度目の波に攫われた。


そのまま力の抜けた身体をベッドに横たえると、清水はゆっくりとその上に覆いかぶさった。


虚ろな目で見上げる杏華の頬に、指先がそっと触れる。


「君は優しくされるのと……少し乱暴なのは、どっちがいい」


低く落ちた声と真上からの視線だけで、腰の奥が震える。


「ん……しみず、さんの……好きにして……」


あまりに大胆なことを言ってしまったと気づいた瞬間、清水の瞳の奥の色がはっきり変わる。

冷たさの奥にギラつく"男"の熱。


「……俺の好きに、か」


片手でネクタイの結び目を緩め、するりと引き抜く。

指がシャツのボタンを一つずつ外していくたび、隙間から覗く肌を目で追ってしまう。

シャツを脱いで放りやると、清水はベルトへ手を伸ばした。

微かな金属音の後、姿を現した獰猛な膨らみが目に入り杏華は息を呑んだ。


脚の間に身体を滑り込ませると、杏華の腰に重さを預けてくる。


「それなら——今日はやけに素直で可愛い君を、少し乱暴に抱いて啼かせたい」


すぐさま唇が重なり、舌が絡むたびにさっきまでの快楽の記憶が鮮やかに蘇り、身体が勝手に彼を求めるように反応してしまう。


「ふっ…ん……で、もっ…痛いのは…や、だ……」


息の合間に、かろうじて絞り出した本音。


杏華のか細い声に、清水は一度上体を起こすと指先で頬を撫でた。

その手つきは"乱暴"という言葉とは裏腹に、とけるようにやさしい。


「心配するな。傷つけたりはしない」


再び腰を寄せ、杏華の熱を孕んだそこへ反り勃った屹立を押し当てた。


何度か浅く擦りあわせ、濡れを確かめるように馴染ませてから先端を入口へ添えた。


「……っ…」


硬さが押し入ってくる感覚に、杏華はシーツを掴み、息を詰める。


清水の指で丁寧に解されたそこは、ゆっくりと彼の形を受け入れていく。



身体の奥がじわじわと熱を孕み、どんどん深いところまで侵食されていく。

この先に待っているはずの感覚をぼんやり感じ取ってしまった瞬間――胸を黒いもやが覆った。


(……やっぱり、こんなのだめ……)


苦手で、嫌いで。

いけ好かない相手で。

しかも、上司で。


こんなふうに一線を越えてしまえば、仕事も、距離感も、何もかも元には戻れない。


散らばっていた理性のかけらが、一気にひとつの塊になって主張を始める。


「……っ、やっぱり……だ、め………」


清水の胸板に手のひらを当て、押し返そうとする。

しかし、その力はあまりにも心許なく、拒んでいるというより縋っているようにも見える。


「だめ? 本当にそう思うのか」


清水の視線がわずかに細められた。


「押すなら……もっと本気で押せ」


耳元に落ちる声は低く静かで、責めるというより真意を試すようだった。


「本当に嫌ならやめる。——でも、そうは見えないな」


「……っ……」


杏華の奥深くを確かめるように、さらに押し入る。

身体はその侵入を拒むどころかしっかりと受け止め、絡みつくように伸縮する。


「さっきまで……俺の指だけで、あんなに乱れてたくせに」


「っ……い、言わないで……」


耳まで熱くなり、顔を見られたくなくて視線を逃がす。


清水がゆっくり息を吸い込み、吐き出す気配が落ちる。


「……それに、誘ったのは君だろう?」


バーでの会話、距離、この部屋に来るまでの全ての流れ——

全部まとめて、胸の中心に突き立てられたようだった。


否定したいのに、決定的な言葉が出てこない。

沈黙が、肯定と同じ意味を持ってしまう。


言葉を失った杏華の顎を、指先がそっと持ち上げた。


「まぁ……君は俺が嫌いだから、仕方ないな」


何気ない調子で告げられたその一言が、罪悪感よりも先に胸を貫く。


"嫌い"——その言葉を向けられた瞬間心のどこかが鋭く疼いた。


「でも——それでも今夜は、もう逃がす気はない」


清水はゆっくりと、ふたりの境界がなくなるところまで、最後のひと押しを沈める。


「——っ……」


腹の奥で、熱がぴたりと居場所を決めた。

すべてを許してしまった感覚に、杏華は息を呑む。


「今だけでいい……俺だけを感じていろ」


耳の奥にまで届く低い囁きが、最後の拠りどころを音もなく崩していく。


(……だめ、なのに……)


思考はまとまらないのに、身体はもう完全に彼を受け入れていた。


揺れる視線を捉えたまま、短く告げる。


「……動くぞ」


拒む余地を与えない、それでいて妙にやさしい声。


その静かな声とは裏腹に、強く腰が打ち付けられた。


「……っ……ん……っ」


小さく切れた声が喉から漏れた。

自分でも驚くほど頼りない声だった。


さっきまで指で触れられるたびに溢れていた甘い声が、今は罪悪感に押し潰され、かすれた息に変わっている。


もう一度、今度は浅く揺らされる。


「……ぅ……っ……」


身体は素直に震えるのに、声だけがどこかで引っかかってしまう。

押し込まれるたび込み上げてくる快感を、杏華は必死に喉元で押し止めた。


(……だめ……っ……声なんて……)


ここで甘い声なんて上げてしまったら、さっき「だめ」と口にした自分が完全に嘘になる。


杏華は手の甲を唇に押し当てて、声を押し殺す。


次の瞬間、無言のままその手首を掴み上げ、そのまま頭上へと押さえつけた。


「——そんなふうに、我慢するな」


深く押し込まれたまま、ゆっくりと腰が揺れる。


「……っ……ん……っ」


堰き止めていたはずの声が、かすれた甘さをまとってこぼれ落ちる。


「……杏華」


名前を呼ばれた瞬間、奥のほうがかすかに震えた。

触れられている場所ではなく、名前ひとつで身体の芯が反応してしまう。


「感じているときに、名前を呼ばれるのが好きか?」


「っ……ちが……っ……」


「違わないだろう?」


低く断ち切るように言われ、杏華の肩がぴくりと跳ねた。


清水はその反応に微かに息を漏らし、刻むリズムを崩さないまま、さらに深く踏み込む。


「……声、聞かせろ。君がどんなふうに俺を受けてるのか……教えろ」


「っ……や、だ……のに……っ……」


言葉とは裏腹に、喉の奥からこぼれる声は震えて甘かった。


清水はその矛盾を愉しむように目を細めると、首筋を唇でなぞる。


「……っんあ……っ……」


堰を切ったように、鼻に抜ける声が漏れた。


「……そうだ。それでいい」


そこから先は、もう止められなかった。


深く押し込まれるたびに甘い衝撃が奥へ届き、杏華の喉からこらえきれない声が零れ落ちる。


「……ぁっ……ん……っ……」


さっきまで必死で堰き止めていた声が、今は勝手に溢れてしまう。

胸の奥も、下腹も、足先まで熱に痺れ、自分の身体じゃないみたいに過敏になっていく。


(……だめなのに……っ 止められない……)


清水の手が腰を強く抱き、角度を変えてさらに深く沈める。


「……っあぁ……っ……」


せり上がってくる甘い波に耐えきれず、思わず枕をぎゅっと掴む。


「……ここがイイのか?」


「ち、が……っ……んあぁ……っ……」


否定を口にしても、そのたびに声はより甘く崩れるばかりだった。


清水はさらに深く、確実に奥を捉える。


「……っ、あ……っ!!」


背骨を駆け上がる熱に、杏華は大きく身を仰け反らせた。


「……っん、や……っ……っ」


噛み締めていても、声は漏れ出す。

連続する波が押し寄せ、視界の端が白く滲んだ。


「や……っ……あ、あ……っ……!」


つま先まで痺れるような感覚に飲み込まれ、杏華はどうすることもできずその波に身を任せるしかなかった。


「……そうだ。ちゃんと感じてるじゃないか」


清水は杏華の腰を支えながらゆっくりと動きを落とす。

掴まれていた手首が解放されるも思うように動かせず、そのままシーツに貼り付いたように動かなかった。


杏華は絶頂の余韻に肩で息を整えながら目を閉じた。


けれど——


「……まだだ」


まだ痙攣を続けるそこを容赦なく穿たれ、杏華の腰が深く沈んだ。


「……っあぁっ……も、だ、め……っ!」


そんな言葉とは裏腹に、身体はすぐに彼の熱を受け止めるようにきゅうっと締め付ける。


「…さっきのだけで、終わりだと思ったのか」


清水は杏華の身体を僅かに膝に乗せるようにして角度をつけると、下腹を内側から押し上げるように強く打ち込む。

その衝撃で胸元まで大きく跳ねる。

肌と肌がぶつかる乾いた音と、奥で擦れ合うたびにぬかるむ湿った音が重なり合う。


「……っああ…っ!…激、し……っ」


耳の後ろまで熱くなるほど、身体の奥がふるふると震えてしまう。


「……っむ、り……っ……もう……っ……」


「無理じゃない。今夜は……啼かせるって言っただろう」


杏華の肩口に顔を沈めるように上体を倒し、奥のいちばん敏感な場所を正確に捉えて突き続ける。


「……清水、さ……っ……あっ……!」


さっきよりもずっと奥を穿たれる感覚に、杏華は思わず清水の背中に爪を食い込ませるようにして抱きついた。


「そうやって縋って…俺の名を呼ぶほうが……ずっと可愛い」


足の付け根が痺れるほど深く沈められ、突かれる速度が速まる。


「……っあ……っ……あ……っ……!」


身体の奥で跳ねる快感に息が追いつかず、涙を浮かべながら必死に大きな背中へしがみつく。


(……もう…だめ…っ……)


「……そんなに締めたら……我慢できなくなる、だろ……」


声ひとつ、今の杏華には震えるほどの刺激で、その言葉に反するように蜜壺がきゅうっと締まる。


「まだ…君を、ゆっくり味わいたいのに…」


上体を起こすと、力なく解けた杏華の手を取り、指を絡ませて強くシーツへ押し付ける。

そして表情がぐっと切迫したものに変わる。

眉間に深く皺を寄せ、目を閉じ、喉の奥で息を噛み殺している。


その顔があまりにも色っぽくて——


いつも冷静で隙のない男が、快楽に表情を歪めている。

しかも今、その原因が自分だという事実に酷く高揚感を覚えてしまう。


杏華が快楽に震えて一層締めつけた瞬間、清水も短く途切れた吐息を漏らした。

堪え続けてきた熱が、杏華の奥で限界まで膨れ上がっていく。


「…ッ、く……っ……」


短く息を詰めた声と同時に、押し入っていた熱が抜け、圧迫感が引いた。

次の瞬間、下腹部のあたりにとろりとした温かさが広がった。


「……は……っ……」


清水の荒い呼吸だけが、静かな部屋に淡く響く。


しばらくのあいだ清水はそのまま覆いかぶさった体勢で、呼吸を整えようとしていた。


額にはわずかに汗が滲み、息の乱れた顔はいつもの整った表情とは違って無防備で。


杏華は、ぼうっとその顔から目を離せなかった。

同時にどうしようもなく眠気が襲ってきて、ゆっくりと瞼が閉じていく。


「……眠いのか」


頬を撫でる指も、その声も驚くほどやさしい。


返事をしようと唇を動かすけれど、声にならない。

ただ口が少し開くだけだ。


意識が落ちていく——

視界は清水の顔の輪郭だけを残して、静かに滲んでいく。


落ちる直前、頬に触れた指先がもう一度だけやさしく頭を撫でていく。


その感触を抱きしめるように、杏華は目を閉じた。

撫でられた余韻に包まれながら、意識は静かに、完全に途切れていった。



°・*:.。.



「……ん…」


瞼の裏に明るい光が差し込み、杏華はゆっくりと寝返りを打った。

身体が沈み込む心地良さが自室のベッドとは違うことに気づき、そっと目を開ける。

杏華はしばらく寝ぼけ眼で、白いシーツの向こうの高級感漂う壁紙を見つめていた。


(ここは……)


昨夜の記憶がゆっくりと浮かび上がる。

国立に食事に誘われて、行ってみたら清水がいて。

一緒に食事をして、バーに付き合わされて。


それから、この部屋で——


ぼんやりした頭に積み重なる昨夜の断片。


そして、身体の奥に残る気怠く甘い疼きに気づいた瞬間、杏華は弾かれたように上体を起こした。


素肌に触れるひんやりした空気に、慌ててシーツを胸元まで引き寄せる。


(私……清水さんと……)


けれど、視線を巡らせても清水の姿はどこにもない。

代わりに目に入ったのは、綺麗に整えられて椅子の背にかけられた自分の服。


そして、遠くからシャワーの音が聞こえてきた時。


考えるより早く、杏華は動いていた。

シーツを手放しベッドを降り、服をかき抱くように手に取る。


いま顔を合わせるなんて——絶対に無理。


会社で会う分には、まだ仕事という盾がある。

けれど、この静かな部屋で二人きりなのは耐えられない。


もつれる指でスカートのジッパーを引き上げ、ブラウスの裾を雑に押し込みながらパンプスへ足を滑り込ませる。

シャワールームの音に意識を傾けながら、急いでドアへ向かう。

クローゼットに掛かったコートを掴む勢いでハンガーが床に落ちたが気にしない。


逃げるように杏華は部屋を飛び出した。



°・*:.。.



杏華が会社のデスクについたのは、始業のわずか二分前だった。


ホテルを飛び出したあと、ロータリーでタクシーを捕まえ、いったん帰宅。

ほとんど放心したままシャワーを浴び、化粧を最低限だけ済ませ、着替えて再び家を飛び出した。


息が整わないまま朝礼の時間になり、席から立ち上がった杏華は、思わず胸に手を当てる。


そして——

目の前の席に“彼”の姿がないと気づいた瞬間、肺の奥から空気が抜けた。


(……いない。よかった……)


向き合わなければいけないことは分かっている。

逃げ続けるわけにはいかない。


でも杏華は、まだ心が追いついていなかった。


昨夜のことを清水がどう捉えているのか。

杏華が何も言わず出て行ったことを怒っているのか。

それとも“一夜限り”の線で割り切っているのか。


どちらにしても、上司と部下として越えてはいけない一線を越えてしまった。


(……仕事しよ。考えたらだめだ…)


気を紛らわせるようにパソコンへ向かい、作業に没頭し始めた。



°・*:.。.



昼休みに差し掛かっても、清水は戻ってこなかった。

フロアが昼休憩のざわめきに包まれる中、杏華はふぅっと息を吐き、椅子にもたれかかる。


(……どうしよう……ほんとに……)


向き合わなければならない問題はふたつ。


ひとつは清水。

そしてもうひとつは——拓海だ。


プレゼン後のメールでの短いやりとりをしただけのまま。

こんな状態で、拓海と何食わぬ顔で昼食を並んで食べるなんて。

そんなことできるはずがない。

けれど、拓海のこともこのまま放置したままではいられない。

あの夜以来ずっと宙ぶらりんのままだからこそ、早く向き合わなければと思ってしまう。


……もっとも、本当に先にどうにかしなければならないのは、直属の上司である清水との関係のほうなのだけれど。


それにしても——社内で二人の男性と身体の関係を持ってしまうなんて。


自分で考えても情けなくて、穴があったら入りたい。

貞操観念はどこに行ってしまったのかと思うレベルで自己嫌悪が押し寄せる。


「はぁ……ほんと、どうしよ……」


「杏華さん?」


背後から名前を呼ばれ、杏華は肩を跳ねさせて振り返った。


佐々木が心配そうに覗き込んでいた。


「そんなにため息ついて……大丈夫ですか?」


「佐々木……」


崩れ落ちそうなほど弱い声が出て、自分でも驚く。


あの怒涛の一ヶ月でさえ、こんな姿は見せなかったのに。

今はもう、取り繕う気力すらない。


杏華は口を開きかけて、結局言葉にならない息をそっと吐き出した。



°・*:.。.



「いただきます!」


湯気の立つ定食を前に、佐々木がいつもの明るい声で言うのにつられて、杏華も手を合わせた。


ふたりは会社近くの定食屋の小さなテーブルを囲んでいた。


佐々木が声を掛けてくれたあと、杏華が「今日、一緒にどう?」と誘うと、佐々木は目を丸くしながらも「杏華さんとランチなんて嬉しい!」と愛想よく乗ってきてくれたのだった。


ひとりで昼休憩を過ごすこともできたけれど、今日ばかりは——誰かと一緒のほうが、余計なことを考えずに済むと思った。


特に佐々木はいつも元気で、その明るさに少しでも救われたら……そんな期待があった。


けれど、その期待はすぐに裏切られることになる。


「プロジェクトの打ち上げ、いつできますかねぇ?清水さん今日もいないから、なかなか決められないし……」


箸を取った手が、ぴたりと止まった。

今一番出して欲しくない人の話題だ。


「杏華さん席近いんで、清水さんが戻ったら打ち上げアポ、取っといてくださいね」


もちろん、今の杏華の状況を知らない佐々木には悪気は無い。

心の中で、それはできそうにないと思いながらも杏華はとりあえず頷くしかなかった。


「それにしても」


佐々木がうどんをふうふう冷ましながら続ける。


「ほんと、一ヶ月間ずっと清水さんは怖かったけど、なんだかんだで杏華さんって、清水さんと相性いいですよね!」


「っ、ゴホッ……!」


啜った蕎麦が変なところに入り、杏華は思わずむせた。


「だ、大丈夫ですか!」


佐々木がお冷を差し出してくれ、それを受け取りながら胸を軽く叩く。


(相性って、そんな言い方……!)


もちろん佐々木のいう“相性”は、仕事上の連携のことだと分かっている。

それでも——このタイミングでその単語を聞かされると、胸の奥を冷たい指先で触られたようにひやりとした。


そして“相性”というひと言が、朝から封じ込めていた記憶の扉を一瞬で揺らす。


"相性"が良かったか、そんなこと考えたくもないけれど——あんなふうに思考が途切れるほど乱されたのは……生まれて初めてだった。


触れられた場所がじんわりと熱を持つような、そんな錯覚が襲ってくる。

あのときの私は、恥じることも忘れて彼に縋りついていた。


(……だめ。思い出したくないのに……)


杏華はそれをごまかすように、急いで口を開く。


「全然、そんなことないから。私だって…未だに怖いよ、清水さん」


そう言った瞬間だった。


“怖い”と口にしたにも関わらず、杏華の脳裏に浮かんだのは——

昨夜そっと頬に触れてきた時、そっと名前を呼んだ時の——あの静かで、驚くほど優しい清水の表情だった。


やっぱり今日はだめだ。

あの男の話題になれば、どうしたって昨日の記憶に繋がってしまう。


佐々木が「え〜? 本当ですか〜?」と明るく笑い、そのまま他愛もない話題を続けようとする。


けれど杏華には、その後の言葉はほとんど耳に入ってこなかった。



°・*:.。.



ランチから戻った杏華は、佐々木と並んでオフィスの入口に立つと、真っ先に奥の席へ視線を送った。


「…よし、いない」


清水の席が空なのを確認して、小さく胸を撫で下ろす。


「…何か言いました?」


「ううん、気にしないで」


不思議そうに首を傾げた佐々木に、軽く首を振る。

それぞれのデスクに戻り、杏華は椅子に腰を下ろすと、すぐにパソコンを立ち上げた。


明日の会議資料のファイルを開き、プリンターへとデータを送信する。


プリンターの前に立ち、機械音を聞きながら、排紙トレーに積み重なっていく用紙をぼんやり眺めていると——


どうしても、昨夜の光景が脳裏にじわじわと滲んでくる。

胸の奥に、さっきまで忘れていた熱がまた灯りそうになった、その時。


———ピーッ。


甲高い警告音が、思考を乱暴に引き戻した。


(………最悪)


ディスプレイのランプが「紙切れ」を示している。

プリンター横のストックを確認するが、きれいに空だ。


「…はぁ」


短くため息をついて、杏華は廊下へ出た。


階段を一つ下り、備品室のあるフロアへ向かう。


取っ手に手をかけたところで、ふと廊下の奥に動く影が見えた。

曲がり角から、国立がひょいと姿を現す。


杏華の手が、取っ手の上でぴたりと止まった。


昨日のあの“妙な誘い”。

なぜ清水とふたりきりになるようなシチュエーションを作ったのか——その意図だけは、どうしても聞いておきたかった。


杏華はつま先を国立の方へ向け、声をかけようとする。


「国立部ち——」


その瞬間。

国立の横の影から、もうひとつ長身のシルエットがゆっくりと現れた。


ネイビーのスーツ。

伸びた背筋。


清水だった。


「……っ!」


心臓が、大きく跳ねる。


杏華は反射的に備品室のドアを開け、中へ滑り込んだ。


(……っ、見られた?)


清水の姿を捉えた瞬間に身を隠したから、気づかれていないかもしれない。

そう自分に言い聞かせる。


けれど——


(国立部長には……確実に気づかれたよね……)


胸の奥がざわりと波打つ。

国立はきっと、昨夜の食事のことを清水へ尋ねただろう。

しかもあの二人はただの同僚ではなく“同期”だ。

食事だけではないことまで、話の端に乗ってしまうかもしれない——そんな不安がよぎる。


(落ち着いて……落ち着けってば……)


胸元を押さえ、小さく息を整えようとした、そのとき。


ガチャリ。


ドアノブが回る音と同時に、扉がぐっと押され、軋んだ。


「っ……」


反射的に両手でドアを押さえる。

けれど向こうからかかる力は、杏華の抵抗などまるで無駄と言うように、じわじわと扉の隙間を広げていく。


そのわずかな隙間から覗いたのは——

逃げ道を与えない、真っ直ぐな視線。


「……開けろ」


低く落ちた声だけで、杏華の背筋にびり、と電流が走った。


もう逃げられない。


観念して手を離すと、清水が扉を押し開け、中へ足を踏み入れる。


途端に、備品室の空気がぴんと張り詰めた。

清水はこちらから一切視線を逸らすことなくドアを閉め、そこに立ったまま何も言わない。


ただ、氷のような視線だけが杏華を捉えている。


怒っている——それだけははっきりと伝わってくる。


杏華は思わずゆっくりと後ずさるけれど、背中がキャビネットに当たったところで足を止めた。


袋の中の鼠とはまさにこのこと。


沈黙が重くのしかかり、喉まで固まってしまいそうになる。

その静寂を断ち切ったのは、清水の低い声だった。


「——なぜ逃げた」


まっすぐなその問いに、こめかみに冷や汗が滲む。


今朝ホテルを飛び出したのは、ただ気まずくて、怖くて。

顔を合わせる勇気なんて、どこにもなかった。


でも、そう言い訳したところで何も解決しないだろう。


「……昨日のことはお互い……お酒のせいで…だから…なかったことにしたほうが、いいと思います…」


震える声で、杏華は必死に言葉を紡いだ。


清水の瞳が、すっと細くなる。


「ホテルから無言で逃げれば、昨夜のことが“なかったこと”になるのか」


淡々と事実を突きつける言葉に杏華は目を伏せ、しぼり出すように続けた。


「……それは……逃げたのは……本当にすみません。動揺してて……どうしていいか分からなくて」


自分でも情けなくなるほど、声が上ずる。


「でも……仕事上の関係もありますから……忘れたほうが……いいと、思うんです…」


言い切った瞬間、清水の気配がわずかに変わった。

しかし、返ってきたのは沈黙だけだった。


怒りなのか、失望なのか。

感情の内側を読ませないまま、ただ焼き付くような視線だけが杏華を縫いつける。


耐えきれなくなり、杏華は視線を逸らした。


「……すみません。もう……戻りますので……」


震える指先でプリント用紙の束を抱え上げ、清水と目を合わさないように横をすり抜ける。


息が苦しい。

この狭い備品室が、急に酸素の薄い密室になったみたいだ。


ドアを開け、ほとんど逃げ出すように廊下へ飛び出した。


廊下に一歩踏み出した瞬間、張りつめていた空気が一気にほどけ、肺へ冷たい空気が流れ込む。


けれど——安堵は、ほんの一瞬で終わった。


「……杏華?」


呼ばれて振り返ると、そこには拓海が立っていた。


紙の束を抱えたまま、杏華の足がすくむ。


(……最悪……)


今だけは、絶対に会いたくない相手を——立て続けに引き当ててしまうなんて。


それでも杏華は、懸命に口角を少しだけ上げてみせた。


「……拓海……」


かろうじて絞り出した声には、まるで力がない。

笑おうとした形だけが、ぎこちなく口元に残る。


備品室で清水と真正面から向き合った数分だけで、心のエネルギーはほとんど使い果たしていた。

ここから拓海と普通に会話を続けるなんて、とてもできそうにない。


「ごめん、ちょっと……急いでて——」


曖昧な笑みを浮かべたまま、その場を離れようとした、そのとき。


「杏華、俺……あの夜のこと、ちゃんと謝りたくて」


腕を掴まれ、杏華は足を止めた。


拓海の声は、この静かな廊下にはあまりに大きく響いて。


廊下でする話ではないし、何より——

このすぐ後ろの扉の向こうには、まだ清水がいる。


一言でも聞かれていたら、考えただけで最悪の光景が頭を過った。


「い、今ここで……その話は……やめよう?」


必死に抑えた声でそう返した、その直後。


備品室のドアが静かに開き、清水が姿を見せた。


「……清水さん、お疲れ様です……」


拓海は一瞬だけ眉を強張らせ、小さくそう告げる。

清水は何も言わず、軽く会釈だけを返した。


それだけなのに、その沈黙の圧で場の温度が数度下がるようだった。


さすがの拓海も、それ以上は何も言わない。

代わりに、杏華をちらりと見つめる。


「……また、ちゃんと話そう」


掠れるような声で言い残し、足早にその場を離れていった。


曲がり角の向こうに拓海の姿が消えた瞬間。

すぐ背後から、ぞくりとするほど強い気配が覆いかぶさってくる。


振り向く勇気なんてとても出ない。

突き刺さるような視線を、痛いほど感じていた。

肌の上を冷たいものが這い上がってきて、喉の奥で生唾がかすかに鳴る。


そして。


「…今夜、空けておけ」


有無を言わせない強さと、抑え込んだ怒りがはっきりと滲んだ声が響いた。


清水は杏華の返事を待つこともなく、拓海と同じ方向へ去って行った。


その背中が見えなくなっても、杏華はその場から一歩も動けなかった。


しゃがみこんでしまいそうなほど、膝から力が抜ける。

それでもどうにか堪えながら、ただ呆然と立ち尽くしていた。

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