第2話 ぽつりと、結城結花は呟いた。
サッカー部のインターハイ県ベスト8という大躍進があった次の日。
日曜日に行われたため、次の日は普通に学校がある。
しかし、今日は昨日の疲労を鑑みて久しぶりのオフだ。
オフは、何をしたらいいのわからない。普段、サッカーばかり考えているから。
中学の時と変わらないのはそれぐらいか。しかし、考えることはどうやったら自分が楽になれるかばかりである。
学校に来て、普段と同じように席に座る。教科書を机の中にしまい、準備を終える。
・・・・今日はやけに騒がしい気がする。
男女の甲高い声が広い廊下で響き渡る。かなり大きい声で会話をしているようで、内容を俺でも知ることができる。
「バスケ部、全国出場決定だって!」
「決勝でも、相手チームに50ポイント差つけたって話だぜ。」
「さすがバスケ部。去年も全国ベスト8だもんなぁ。」
「俺試合観に行ってたけど、エースの那珂川楓が他と比べて桁違いに上手いわ。」
那珂川楓。その名前は友人関係の乏しい俺でも知っているくらいには有名だ。
二年生ながら主将を任されていて、高身長でイケメン。顔はうろ覚えだが、身長はおそらく180㎝を超えているだろう。以前新聞にも取り上げられ、全国中に彼の名前が知れ渡るのも時間の問題だ。
どうやらうちのバスケ部は、一足先に早くインターハイの県予選が始まっていて、もう全国行きが決まったようだ。圧倒的な差をつけて勝利したというものだから、周囲の反応が騒がしいのも頷ける。
一方、一応初めての県ベスト8のサッカー部はというと、、、、全く話題にもならなかった。理由は単純で、ほかの部活が強すぎるからだ。
強すぎるとは抽象的だか、非常に的を射ている表現だ。なぜなら、うちの高校では、バスケ部をはじめ、ほとんどの部活が全国上位を狙えるほどの実力を持っている。
県立成宮高校
公立高校でありながら、私立に並ぶスポーツ強豪校。
その一面を持ちながらも、進学校としても、県内では優秀である。
県立高校だが、特例としてスカウト、推薦の入学を認めており、普通科だけでなくスポーツ科の設置がされている。
一般入試では、毎年倍率がかなり高い傾向である。
県立高校にしては出来すぎている、と思うのはおかしくない。どうやら成宮高校OB、OGのプロによってもたらされたものがほとんどのようだった。
また、これは伝統でもなんでもないが、マネージャーが可愛すぎるとしても有名になった。学校が運営するSNSによって学校紹介が行われた際、部活動にも触れられた。マネージャーの紹介が引き金となって、視聴回数が爆増したらしい。
その中でも、可愛いマネージャーなんてものは存在しないサッカー部に入部するものは変人であるといえる。そもそも部員は15人しかいない。マネージャーも必要ないぐらいだ。
俺も、その変人の一人だった。高校は強豪校に入るつもりもなかったし、学力はそれなりに優秀であったため、ここを選んだというだけだった。
正解を見つけるのに、強いかどうかは関係ない。
もっとも、ここでも正解らしい正解は見つかっていない。ならばいっそ、遠く離れた場所で寮生活をしてみる、など環境をガラッと変えるのもよかったかもしれない。
それを選ばなかったのは、どこか、正解を浅く考えていた自分の甘えだろう。
けれど、そのままサッカーを辞めていたら、それが一番の最悪であるとはわかっていた。
けがを放置していたら、いつかはさらに悪化する。
それがさらなる後遺症をもたらすか、はたまた傷跡として一生消えないものとなるか。今サッカーをプレイしていることは、ある意味、治療に近い。
その治療が適切かどうかは、いまだ、真偽不明である。
「あのっ!!」
ある意味自傷行為に近い思考をしていた俺は、大きなその声に意識を取り戻す。
声がした方向を向くと、そこには、可愛らしい少女が立っていた。
彼女は、可愛いマネージャーとして有名になった、結城結花だった。
赤い髪と少し着崩した制服が特徴的で、より彼女をかわいらしく魅せている。
バスケ部のマネージャーで、エースの那珂川楓とは幼馴染らしい。 (まぁ、盗み聞きだけど)
「ごめん、考え事をしていて。どうしたの?」
女性と話すのはあまり得意ではないが、できるだけ乱暴にはならないよう、落ち着いて、そう返す。
接点はないはずだが、いったいどうしたというのだろうか。
「あのっ、昨日、試合見てました!ベスト8おめでとうございますっ」
・・・驚いた。昨日の試合にまさか彼女がいたとは。見た限りでは居なかったはずだが、完全ではないので相手チームのスタンドに紛れていた可能性は否定できない。
「ありがとう」
できるだけ微笑み、心からの感謝をこめる。いくら他が圧倒的といっても、個人的にはかなり達成感を感じていたので、そう言ってもらえるとありがたい。
「~っ!///」
なぜか彼女は赤面し、今にも湯気が出そうだ。
なにかしてしまっただろうか、いくら考えても、理由はわからない。
「い、いえっ。次も頑張ってくださいっ」
彼女はそう伝えると、すぐに教室を飛んで出てしまった。
なぜか教室がどよめいたような気がするが、昨日の疲労だろうか、頭が回らない。
彼女のことは気になるが、今考えても寝落ちを繰り返すだけだろうし、朝のHRまでは多少時間があるため、少し寝よう。
机に突っ伏すると、すぐに眠りについてしまった。
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結城結花side
教室を飛び出し、慌てて女子トイレへと駆け込む。
鏡を見ると、顔が真っ赤に染まった自分が写っていた。
「なにやってるんだろ、あたし」
自問自答を繰り出すも、答えは出ない。
顔の火照りを覚ますように手であおぐと、意味のあるかどうかわからないそよ風が送られる。
こうしていると、昨日の風を思い出す。
サッカー部に彼氏がいる友人に誘われ、サッカー部の試合を観に行った。
どうやら、大事な一戦らしい。サッカーに興味のなかった私は、少し退屈だったけど、それでも途中からは面白いと感じるようになった。
ずっと目に留まっていたのは、身長の高くない、髪がぼさぼさな子。
名前は・・・友人に聞いたら、佐川佐輔っていうらしい。
遠くからじゃよく顔が分かんないな。
やる気がなさそうに見えるけど、プレーはいつも積極的で、だれよりも動いてた。真剣にサッカーやってるって感じがした。
だから、最後のシュートはすごかった。
放ったボールが宙に浮いてるとき感じたあの風は、ボールが運んでくれたのかな。
もしかして、彼が送ってくれた風なのかな。フフッ。それはないか。
でも、やっぱり。
「・・・かっこよかった」
ぽつりと、結城結花は呟いた。
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木南です。
ヒロイン一人目が出てきました。
次はあるところに触れていきますのでぜひとも読んでもらえると嬉しいです
目立たないサッカー部の俺が、なぜか強豪の部活の美人マネージャーから声をかけられる。 木南 @kimi777
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