第1話 だから、佐川佐輔は、サッカーを捨てることはできない。
ゴールが決まった。無情にも、試合終了を告げるホイッスルが鳴り響く。
スコアを確認すると、0-0から1-0へと変化していた。
相手チームの観客のどよめきがそれをひしひしと実感させる。
相手チームを確認すると、泣いたり、うずくまっていたりと、過去を連想させるようだ。
、、、また、これだ。
身体を蝕んでいくような気持ち悪さと、心臓が激しく脈打つこの感触。
ゴールを決めるたび、もしくは勝つたびにこれが沸き上がる。
勝利を喜ぶ味方チームにを横目に、ゴールを実感することもせず、最後の挨拶のためにすぐに整列の位置に着く。
いまはただ、この感触から目を背けるために、早くコートを出たいとしか考えられなかった。
挨拶の際には、父親から教わった、礼儀を大切にすることを心掛けている。
これは中学の時からも同様だ。
すべてに感謝をこめ、しっかりと礼をする。
挨拶が終了し、気持ち悪い感触がようやく抜けた後、ようやくあの事を思い出す。
「うてーーーーーーーっ!!!!」
声の高さから、おそらく女性ではないだろうかと予想できる。
ただ疑問に残るのは、あの瞬間、どうして何も考えずシュートを放てたのか。
普段の自分なら、ゴールを決めた後ばかりを気にしてしまって、 打つと決めてから実際に放つまでに、かなりのタイムラグが生じるのだ。
分からない。
身体が反応して動いたのか、はたまたなにか自分の心に語り掛ける何かがあったのか。そもそも、うちのチームの数少ない観客たちに、女性はいなかったはずだ。
かなりがやがやしていたため、どこから声が飛んできたのかさえ分からない。
しかし、誰かもわからない彼女には感謝している。
おかげで、チームを勝たせるという最低限の目標は達成できた。まぁ、自分の本来の目標を達成することはできなかったが。
サッカーが楽しい。
この感覚をもういち度味わうためだけに、佐川佐輔はサッカーを続けている。
その日を待ち続けたその先に、いったい何があるというのか。
さらに、地獄を見るのではないか。本当に自分が欲したものがそれなのか。己が抱く理想の正解が見つかるなんて限らないのに。
つらくて苦しいだけの理想なら、そんなものはいらないのに。
こんな考えではサッカーを辞めたほうがましなんじゃないか、なんて考えたのはとうに百を超えている。だけど、一度抱いた理想を、自分から捨てることはできなかった。ただ縋って、苦しんで、挫折して。乗り越えた先には明るい未来が待ってるなんて甘い期待に誘惑されて。これじゃまるでギャンブル依存と一緒だ。
もしかしたら次当たるかもしれない。これが当たったら幸せになれる。
そんなもの、不確定で効率が悪い。
だけど、もうこれしか自分が信じられるものはないから。
だから、佐川佐輔は、サッカーを捨てることはできない。
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木南です。今回はかなり短いです。
もうお気づきかもしれませんが、実は主人公にとっての正解を見つけることが物語の本筋となります。そのため、正解という言葉が多く出てきます。
相手をつぶしてまで勝つことは本当に自分にとって『正解』なのか。
正解≒主人公のサッカーへの考え方
このように考えてもらうと、今後さらに読みやすく、深く考えられると思われます。
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