目立たないサッカー部の俺が、なぜか強豪の部活の美人マネージャーから声をかけられる。

木南

第0話 佐川佐輔のサッカー人生について

サッカーを始めたのは中学の部活からだった。

父親の影響もあり、迷わずに入部した。普段お遊びでやっていたサッカーに、本気で取り組んだ。小学生から変わったことはそのくらいだった。


決してサッカーはうまいとは言えなかったが、サッカー部の部員数が少ないこともあり、その頑張りを評価されスタメンにも選ばれた。

自分がサッカーをやっていると初めて実感した瞬間だった。


あの瞬間を忘れることなく、そこからさらにサッカーにのめりこんでいった。

朝起きてから夜寝る前まで、ずっとサッカーについて考えていた。

練習試合でゴールを決めた日には、寝る前にゴールを奪った快感と興奮でよく眠れなかったのを覚えている。


しかし、いつからだっただろうか。

サッカーをやっていても、ゴールをもぎ取っても、少しの不安と後悔に襲われる。

きっかけはとっくに自分でも理解している。


中学三年生になった自分の、最後の大会だった。

地区予選一回戦、うちのチームよりもレベルの低いチームと当たった。

結果としては3-0で完勝した。


しかし、俺は、見てしまったのだ。

試合終了を告げるホイッスルが鳴った瞬間、崩れ落ちていく、相手の姿を。

顔を隠すようにうずくまり、体が震えていた、おそらく、泣いていた。

相手の緑色のユニフォームと、託された背番号。


その背中が、いつもなら気にならない、はずなのに。自分は周りから見えないように小さく、ガッツポーズをしてみたり。でも、その日は違った。

自分のユニフォーム、スパイク、背番号を確認する。


それは、いつも見てきた変わらないものばかりで。

だけど、なぜか心を蝕んでいく。それを見るたびに、過去の記憶がフラッシュバックする。


俺は、想像してしまった。相手チームの、青春を捧げた、三年間について。

もし、自分がその先を潰していなかったら。もし、彼らが笑って終わっていたのなら。


これは同情からくるものなのか、はたまた彼らからの憎しみを感じることを恐れているのか。俺にはわからなかった。

彼らがこの後学校で、家で、何を感じるのかさえ考えてしまって。


結局、怖いだけなのだ。

自分の手で他人を蹴落とし、さらなる結果を求めようとすることが。

ただ逃げていただけかもしれない。

自分が勝つということは、相手は負けるということにこれまで向き合おうとせず、ただ自分の勝手な範疇で物事を決め、自分をさらに深淵に迷い込ませたのは他の誰でもない、俺だ。


勝ち負けの勝負が嫌いという人は、この世の中でも一定数いるらしい。

確かに、勝つということは、自分と相手の区切り、もしくは上下で別れる明確な差をはっきり痛感させられる瞬間だ。それが勝者であっても敗者であっても、どちらにせよだ。


勝つことが悪いことではない。かといっても、それが自分にとって正解なのかは、人によってさまざまだ。

何が言いたいのか、結局自分でもわからない。ただ一つ言うのであれば、勝つことは俺にとって正解ではなかった。


勝つことを正解だと信じていた、ただの敗者にすぎない。



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インターハイ県予選四回戦。ベスト8をかけたこの試合。

後半アディショナルタイムに突入したものの、スコアは0-0。


うちのチーム、県立成宮高校サッカー部はノーシードから駆け上り、創立以来初の県ベスト8を懸け、ゴールに迫る。


対する相手チームはシード校であり、毎回、県ベスト4に入るような強豪校だ。

圧倒的にボールを支配されるも、決死の守備で食らいつく。


やっとこの時間になり、相手の疲労のおかげか、ボールを保持することに成功した。

これが最初で最後のチャンスだ。ゴールを決めるなら今しかない。

ショートパスをつなぎ、相手陣地に潜り込む。しかし、相手のディフェンス陣からは絶対にここを通さないという気迫を感じる。


少し、あの時の彼らに似ている。最後の大会の、一回戦に。

その時彼らは負けていたのにも関わらず、点を取らさないという強い意志を持っていた。かつての記憶に少し苦痛を感じるも、気を取り持ち直す。


より一層、歓声が強まった。しかしそれは、うちのチームに充てられたものではない。もとよりこのサッカー部は弱小校である。相手チームの保護者、友人までもが叫んでいるのがひりひりと伝わってくる。うちの応援は、サッカー部員の友人が10もいかないくらいのあつまりだ。生憎俺の友人と呼ぶことのできる人間はいないので、俺の応援だけならば0だ。


、、、サイドへのロングパスが展開に有利になったようだ。ペナルティーエリア付近まで到着し、これ以上の推進を不可能だと感じたサイドの味方選手からバックパスを受け取る。ペナルティーエリアよりも5メートルほど遠い場所だ。まだシュートを打つには早すぎる。


受け取った位置が悪かったか、味方のサポートの前に相手に囲まれる。

四面楚歌の状態であるが、ここで俺がボールを失えばそのままカウンターされる。

ここはシュートの選択しかない。


相手を一人かわし、そのままキックモーションへ。

こう見ると、とてつもなく俺は成長している。中学のときは、一人かわすのも一苦労だったが、中学のサッカー部の引退をきっかけにか、かなりうまくなったと感じる。

しかし、あの日を境にうまくなったとするなら、なんとも皮肉なことだ。


自分でも、分かった。このまま振り抜けば、ボールはゴールへと確実に吸い込まれる。ほんのわずかな間だけ、体が硬直するのが分かる。


このまま打てば、試合に勝てる。しかし相手は負ける。自分が何度も自問自答した、自分の正解について。考えた結果は、勝つことは自分の正解ではないと判断したのに。


思い浮かぶは、ただ純粋にサッカーを楽しんだ、中学1、2年の間。

その時に味わった、ゴールの快感。いつかまた味わえるんじゃないかと、そのためだけにこの右足を振りぬきたいと感じる。


また、純粋にサッカーを楽しむことができるのだろうか、


期待しても、無駄だというのに。



「うてーーーーーーーーっ!!!!」



遠くから大きな声で叫んだのが聞こえた。

その瞬間、僕の前からボールはなくなり、ゴールに吸い込んでいた。





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はじめまして。木南と申します。

 この話では、主人公のサッカーへの心情と私の経験したサッカーへの心情をかなりリンクさせています。

 そのためかなり個人の考えが反映されていますので、どうかそれが私が読者様に共有したい、伝えたいものだと思ってお読み下さい。

 タイトルに興味を持っていただいた読者様。

タイトルにしては重すぎるかもしれませんが、面白くするよう頑張るので見ていてください!

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