08|コラム記事

2018年11月25日公開

NPО法人「█████」ウェブサイト コラム記事



子どもの声に耳を澄ませるということ

——あるご遺族の証言から、私たちが考え続けたいこと



 私たちNPО法人「█████」は、子どもの心の健康を守り、安心して声を上げられる社会をつくることを目的に活動しています。


 日々、保護者の方や教育現場から、さまざまなご相談が寄せられますが、その多くは「はっきりとは説明できない違和感」から始まっています。


 今回ご紹介するのは、活動の一環として行った、あるご遺族へのインタビューです。

 大変つらい内容を含みますが、同じような苦しみを誰かが抱え込まないために、掲載することを決めました。



■「あの子は、ずっと我慢していたのだと思います」

 取材に応じてくださったのは、小学4年生の娘さんを亡くされたお母さまであるかどむらあやさんです。娘のさんは昨年10月、ご両親の不在中に、ご自宅があるマンションの8階、ベランダから転落して命を落としました。


「警察や周囲からは、事件性は見当たらないと言われました。確かに、死因は飛び降り自殺かもしれません。でも、親としては、その自殺の原因を明らかにしたい。そう思うと、どうしてもまだ納得できない気持ちが残っています」


 彩実さんは、静かに、しかし一言一言を噛みしめるように語ってくださいました。



■小さな「悲しい」という言葉

 未希さんは生前、学校での出来事を日常的に彩実さんに話していたそうです。勉強のこと、友達のこと、楽しかったこともあれば、少し元気のない日もありました。


 その中で、自殺の数か月前から何度か繰り返されていたのが、次の言葉でした。


「最近、学校で友達に無視されるの」


 誰かに強く責められたわけでも、目に見える暴力があったわけでもありません。

 ただ、声をかけても返事が返ってこない。

 グループで話していると、自分だけ話題に入れてもらえない。


 彩実さんは当時、「子ども同士ではよくあることかもしれない」と思いながらも、胸の奥に何か引っかかるものを感じていたといいます。



■楽しそうだった交換日記

 未希さんには、学校に仲の良い友達がいました。その友達と未希さん自身を入れて4人で順番に書いていく交換日記をしており、その存在は角村家含めて各ご家庭でも知られていました。


 日記の内容は、ごくありふれたものでした。


・宿題が難しいという愚痴

・体育の授業がちょっと苦手なこと

・クラスの男子の誰がタイプか

・好きなファッションや芸能人の話題

・最近流行っている恋愛成就のおまじない


 どれも、この年頃の子どもらしい、ほほましい内容です。彩実さんも「楽しそうで良かった」と思っていたそうです。両親共働きで寂しい思いをさせているのではないかと不安だったため、仲の良い友達ができて、一緒に遊んだり交換日記をしたりする楽しい日々を送れていることに安心していました。。


 ところが、ある時期を境に、交換日記で未希さんの順番だけが飛ばされるようになりました。

 他の3人のやりとりは続いているのに、未希さんのページだけが書かれないまま、日記は進んでいきます。


「遺品になるかもしれないから」


 未希さんが生前、そのことで悲しそうにしていたことを知っていた彩実さんは、他の子の保護者に「娘の遺品にもなりうるものなので、どうしても内容を確認したい」とお願いしたといいます。

 その結果、日記を一時的に借り、コピーを取ることができました。


 現在、そのコピーは彩実さんの手元に残されています。


 そこに書かれていた内容は、確かになにない日常の記録でした。

 ただ、まるで途中から未希さんがいなくなってしまったかのように、ある日を境に、静かに登場しなくなっていたのです。

 そして、そのことを他の3人が気に留めている様子は、日記の内容からは一切うかがえませんでした。



■部屋に残されていた、もうひとつのサイン

 さらに、彩実さんが未希さんの部屋を整理していた際、気になるものが見つかりました。


 机の引き出しや、ランドセルの奥から出てきた、数枚の紙。そこには、目の絵が何十個も、びっしりと紙いっぱいに描かれていました。

 私たちも彩実さんから実物を見せてもらいました。子どもが描いたとは思えない、ぎょっとするような紙でした。


「最初は、とても不安になりました。未希がどうしてこんな不気味な絵を描いたのだろう、と」


 整った絵ではなく、何かに追い立てられるように描かれた目。

 見る人によっては、不気味さを感じるかもしれません。


 彩実さんは、言葉にできなかったつらい気持ちの表れだったのではないか、あるいは未希さん自身が描いたのではなく、誰かからの嫌がらせなのではないか、やはりいじめがあったのではないかと考えるようになったそうです。



■学校への相談と、届かなかった思い

 彩実さんは、担任の先生や校長先生にも相談しました。

 未希さんが無視されていたこと、交換日記のこと、自宅での未希さんの様子、そしてあの異様な目の紙について、詳細を丁寧に伝えたといいます。


 しかし、学校側の反応は、彩実さんの期待を裏切るものでした。


「子ども同士のことですし……」

「いじめとまでは言えないのではないか」


 そのような無慈悲な、そして煮え切らないものでした。


「いじめと断定できない、という理由で深くは取り合ってもらえませんでした。でも、断定できないからこそ、気にかけてほしかったんです。しっかりと調査してから判断してほしかった」


 その言葉には、今も癒えない思いがにじんでいました。


 未希さんが亡くなったのは、自身の誕生日の翌日でした。仲良しグループの中に、未希さんと誕生日が同じ日の子がいたそうです。そして、その子だけが祝われ、自分が無視され続けたことが、彼女の背中を押してしまったのではないか。


 彩実さんは涙を浮かべながら、そうお話ししてくださいました。



■私たちが大切にしたい視点

 私たちは、この出来事を通して、改めて考えさせられました。

 いじめかどうかを大人がさっさと線引きすることよりも前に、まず子どもが発している小さなサインに、どれだけ寄り添えているのか。


 無視されること。

 仲間の輪から、静かに外されること。

 それは大人が想像する以上に、子どもの心を深く傷つける場合があります。


 子ども自身が「うまく説明できない」「大したことではないかもしれない」と感じてしまうからこそ、周囲の大人が立ち止まり、耳を澄ます必要があるのです。



■誰かひとりでも、気づけるように

 私たち█████は、

「はっきりした被害がないから問題はない」

という考え方に、疑問を投げかけ続けたいと考えています。


 子どもの心の不調は、あいまいで、見えにくい形で現れます。

 だからこそ、「気のせい」「様子見」で終わらせない社会でありたいのです。


 このインタビューが、

「もしかして、あの子は大丈夫だろうか」

と立ち止まるきっかけになれば、これ以上の願いはありません。


 私たちは、これからも子どもの声に寄り添い続けます。

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