第4話 スライムの食べ放題


増殖するスライムと交戦してから、どれほどの時間が経ったのか。


初戦とは比べものにならないほど、経験値は稼げている。

スキルも、すでに複数獲得していた。


男は【製作者メイカー】を起動する。


【付与】スキルを用い、【隠蔽】を自身に付与。

これで、仮に誰かに【鑑定】されても、ステータスは見抜かれない。


次に、【鑑定】へ【解析】を重ねる。

スキルは再構築され、【解析鑑定】へと変化した。


対象のステータスだけではない。

人、魔法、スキル、武器、アイテム、地形――

あらゆる情報を、より深く読み取れる。


まずは、自分自身。


【解析鑑定】を発動する。

対象は、このドラゴンの肉体。


種族――ロックドラゴン。

岩石並みの防御力。

接近戦特化。

固有スキルは平凡。


最下位種。


「……なるほど」


だが、その評価は過去のものだ。

今の自分は、すでにその枠を外れている。


その時。


ぐぅ、と腹の奥が鳴った。


どうやら、この身体にも空腹という概念はあるらしい。

周囲に食料はない。


――いや。


目の前には、無限に湧くスライムがいる。


今までは、経験値を稼ぐための“的”だった存在。

食料として考えたことはなかった。


男は一体、スライムを掴み取る。


試しに、口へ。


……噛む。


柔らかい。

意外にも、甘い。


前世で食べた「グミ」という菓子に、よく似た味だった。

大きさは、その倍ほど。


「……悪くない」


二体目。

三体目。


ほとんど噛まず、丸呑みする。


スライムは増殖し続ける。

食料が尽きる心配はない。


しかも――

生きたまま食べているためか、経験値も同時に入ってくる。


まさに、一石二鳥。


狩り。

捕食。

狩り。

捕食。


それを、延々と繰り返す。


時間の感覚が、曖昧になる。


その時。


視界に、赤く点滅するボードが現れた。


嫌な予感と、期待が同時に走る。


表示された文字を読み上げる。




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




    突然変異による進化が開始されます。

      進化をしても宜しいですか?


         YES / NO




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




進化。


この状況で、それを拒む理由はない。


男は迷わず、YESを選択した。


次の瞬間。


ロックドラゴンの肉体が、金色の光に包まれる。


全身に、ひび。


岩の装甲が、内側から押し上げられる。


バキッ。

ミシミシと、鈍い音。


砂色の岩肌が、剥がれ落ちる。

砕け、崩れ、床に転がる。


内部から現れたのは――

粘性を帯びた、半透明の肉体。


激痛。


骨が溶け、筋肉が形を失い、再構築されていく感覚。

内臓の位置がずれ、皮膚が流動化する。


叫び声を上げる暇もない。


意識が、遠のく。


――そして。


視界が、白く弾けた。




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−




          進化完了

         ロックドラゴン

            ⇩

     スライムドラゴンに進化しました




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



新たな肉体が、静かに呼吸を始める。


最下位種の竜は、

異端の竜へと生まれ変わった。


すべては、ここからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

前世は大賢者、今世は最下位種スライムドラゴン――規格外ステータスで最強になり、冤罪の聖女を守り抜く ことひら☆ @honohono5105

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画