第3話 【魂環離脱】のデメリット


一度の刺突による突撃で、数十匹のスライムがまとめて弾け飛ぶ。


プチッ。

プチプチッ。


ゼリー状の肉片が宙を舞い、床に落ちて溶けていく。


爪で引き裂く。

手刀で斬る。

刺突で貫く。


攻撃のパターンを変えながら、男はひたすら潰し続けた。


数分で百匹以上。

だが――減らない。


むしろ、増えている。


(……住処か。あるいは、増殖型ダンジョンか)


だが、確証はない。

【鑑定】がない以上、ここで考えても推測の域を出ない。


時間の無駄だ。


現状でできることは、一つ。

ただ、駆逐する。


スライムを避け続けた結果、【回避】を獲得。

体当たりを受け続け、【スライム耐性】を獲得。

酸を浴び、【酸耐性】を獲得。

戦闘を重ね、【身体強化】を獲得。


気づけば、スキルは増えていた。


さらに、数百匹以上を討伐。

大量の経験値を獲得する。


――これで、使える。


男は視界を操作し、【製作者メイカー】の一覧を開いた。


今の経験値で、製作可能なスキルを精査する。


(……なるほど。この程度か)


候補は限られている。

だが、現状に必要なものは揃っていた。


選んだのは、三つ。


【鑑定】

【解析】

地図マップ


経験値を代価に、製作する。


確認用のボードが展開された。




−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



  経験値を課金して

  スキルを製作しますか?


    YES / NO



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−



迷いはない。

YESを選択する。


数秒後、別の表示。


【鑑定】【解析】【地図マップ】を獲得しました。

経験値は100になります。


……100。


思わず、思考が止まる。


(やはり、か)


これが――

禁忌ロスト魔法【魂環離脱アニマ・エクソダス】の代償。


レベルが、異常なほど上がりにくい。


どれだけ経験値を得ても、

ほとんどがスキル製作の燃料として消えていく。


通常の成長曲線から、完全に逸脱している。


だが。


その代わり――

ステータスやスキル構成を、自由に“魔改造”できる。


(不自由と引き換えに、自由を得た……か)


悪くない。


スライムが増殖するダンジョンなら、尚更だ。


【鑑定】で状況を把握し、

【解析】で効率を高め、

【地図】で把握する。


そして――

スライムを、狩り続ける。


経験値は、すべて自分のもの。


最下位種の竜は、

誰にも邪魔されず、黙々とスライムを狩り続けた。


歪んだ成長の、その先に何があるかも知らずに。

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