第2話 スキル獲得


最初は、何も見えなかった。


闇。

完全な闇。


音もなく、気配もない。

自分が存在しているのかすら、分からない。


だが――

思考だけは、はっきりしていた。


数秒後。

視界が、薄く戻る。


次の瞬間、ピコッという軽い音と共に、視界に半透明の画面が展開された。


◆【スキル獲得】

 ・【暗視】

 ・【気配】

 ・【聴覚識別】

 ・【思考加速】


4つのスキルを獲得しました。


なるほど。


この世界のスキルは、行動や体験そのものが引き金になるらしい。

意識を失い、感覚を失った――その経験が、今のスキル取得に繋がったのだろう。


暗視により、周囲がはっきりと見える。

だが、気配も音も感じない。


この場所には、魔獣はいない。


そう判断し、男は歩き出した。


……


道中、小石が転がっていた。

試しに拾い、投げる。


ヒュッ、と意外なほど真っ直ぐに飛んでいった。


ピコッ。


【投擲】スキルを獲得しました。


――些細な行動でも、スキルになる。

ずいぶんと、都合のいい世界だ。


次は、壁。


頭から突っ込む。

岩壁が、軽くひび割れた。


【突撃】を獲得。


今度は、素手で石壁を切り裂く。


【手刀】を獲得。


鋭い爪で突き刺す。


【刺突】を獲得。


跳ぶ。


【飛躍】を獲得。


着地の衝撃で、地面が震える。


【振動】を獲得。


――合計、九つ。


レベルは低いが、できることは一気に増えた。


その時。


ガサッ。


【気配】が反応する。


背後。

複数。

しかも、数が多い。


ゆっくりと、接近してくる。


男は振り返った。


姿を現したのは、ゼリー状の魔獣――スライム。

小型。

コアは見当たらない。


だが、問題は数だ。


単体ではない。

群れ。


まるで蟻の大群のように、数百匹はいる。


不利――

そう判断するのが、普通だろう。


だが、男は違った。


(……経験値効率は、悪くない)


思考加速が、冷静な判断を支える。


小型。

耐久力は低い。

数は多いが、密集している。


「悪くない」


ロックドラゴンの短い脚で、一歩を踏み出す。


重い。

想像以上に、身体が重い。


速度は出ない。

だが、止まる理由もない。


『グガアアアアアアッ!!』


岩のような爪を突き出し、突撃。


刺突。

振動。

突撃。


スライムが、次々と弾ける。


プチッ。

プチプチッ。


破裂音が、洞窟内に響き渡る。


触れた感触は、奇妙だった。

柔らかく、だが――どこか、馴染む。


(……素材として、使えるか?)


そんな思考が、一瞬だけ過ぎる。


今は、ただ潰す。

経験値を得るために。


最下位種の竜は、

黙々と、スライムを踏み潰し続けた。


――進化への第一歩だとも知らずに。

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