7.家づくり

 神様って凄い。

 何がとは言わないが、最上級の感謝を捧げる。


 やっぱり体力は正義だよね。


 こうして人が増えた、俺の異世界ライフ。

 まずは家を作ろう。


 というか、今まで葉と砂の上というのは雑すぎた。

 さすがにギンが加わったからな。


 野ざらし生活も終わりにしよう。

 そこでまず手を挙げたのはギンだった。


「木を切るのは、ぜひお任せくださいっ!」


 ギンは剣の達人だった。

 しゅぱぱっとヤシの木を斬っていく。


 ……あの刀と細身のどこにそんな力が?


「ぴい!」


 気にしちゃ駄目だって?

 それはそう。

 ケモ耳と尻尾だってあるし。


 異世界の刀で木は斬れるのか。

 斬れる、斬れるのだ。


 異世界に来てから、朝になると必ず漁に出ていた。

 しかしこの日は初めて漁に出なかった。

 家作りをずっとしていたのだ。


 とりあえずは丸太小屋。

 俺もナイフを生み出して、木材削りで協力する。

 その様子を見たギン。


「やはり主様は――」


「うん?」


「常人ではないのだなぁと……。

 畏怖の念を新たにいたしました!」


 いや、君だって常人じゃないけどね。

 刀ですぱすぱヤシの木を斬るとか。

 地球人には無理だからね。


 ちなみに俺のことはほとんど説明していない。

 気がついたら、ここにいた。

 それだけ。


 実際、異世界のことを聞かれても困る。

 俺にとってはもう過去のことだし。


 ギンもうるさく聞いてこない。

 というより、彼女は純粋だった。


「どうですか、主様! 綺麗に斬れましたよー!」


 静かにしていると目元鋭いサムライ。

 でも中身は明るく、子どもっぽいところもある。


「おー、その丸太はこっちに……」


「今すぐに! ええと、こうでしょうか?」


「うん、そんな感じで」


「にゃ!」


 シロちゃんは偵察係だ。

 ちょうどよい太さのヤシの木を見つけてくれる。


「そちらでございますね! ただいま参ります!」


 最初は正直、どうなるかと思ったけれど。

 なにせ、小屋の作り方なんてわからん。


 ギンは小屋作りに慣れていた。


作事さくじはサムライの嗜みですので。

 木造建築なら、お任せあれ!」


 頼もしい。

 この調子なら色々と作ってくれそうだな。


「えいっ!」


 木と木を繋ぐ穴もギンは刀でくり抜いていく。


 なぜ刀で木に穴が掘れるのか。


「にゃぁっ……!」


 そういうものだって?


 そうかぁ。

 と、思うことにする。




 こうして半日、作業をして。

 そこそこ立派な丸太小屋が完成した。


「できましたー!」


「にゃー!」


 とりあえずはワンルームくらいの家。

 数人が横になれるスペースと作業場を手に入れたぞ。


 これで野宿は終わりだ。

 ギンが来たらあっという間だった。


「あとは火が欲しいな」


「火、ですね。確かに……! いい方法があります!」


「魔術とか?」


 ギンが木の切れ端と棒を取り出した。


「いいえ、板と棒を用意しまして――ひたすら擦ります!」


「う、うん……」


「こうすると火が着きます! いつか、きっと……!」


 ギンはまっすぐだけど、少し猪突猛進かもしれん。

 でもこれぐらい前向きなほうがいいか。


 昨日の話だとギンはわりと悲惨な境遇。

 嘆いて泣かれるよりはいい。


 まだ日は高い。

 一日仕事かと思ったけど、余裕がある。


「じゃあ、火はそれとして。漁に出かけるか」


「にゃうん!!」


「いってらっしゃいませ!」


 おや。

 ギンは留守番希望のようだ。


「ギンは来ないの?」


「はい、私はここで火を着けるのに励みます!」


 彼女はちらっと目をそらした。


「それに私、泳げませんので」


 ……なるほど。

 金づちだったのね。


 俺の近くにいると水の中でも呼吸はできる。

 それは実証済みだ。


 あとはなんだかテレパシーもできる。

 水中でなら俺とギンは会話できるのだ。

 シロちゃんとはできないのが残念だが……。


 でも海でギンが密着していては俺が動けない。

 漁は無理だ。


「にゃ……」


 シロちゃんも首を振っている。

 仕方ないな。


 ギンは着火役。

 俺とシロちゃんは漁に出かけよう。


 今日はサンマの日だ。

 どこを向いても細長いサンマが泳いでいる。


「にゃ! にゃっ!」


 阿吽の呼吸で漁をする。

 サンマはパニックになると散っていく。


 そこをうまい具合にシロちゃんに誘導してもらって。

 網でひとすくいする。


 人が増えた分、頑張らなければ。

 今の食料確保ペースなら余裕だけど。


 家ができたので、次はどうするか。


 欲しいのはやはり貯蔵小屋。

 食料の保管場所が欲しい。


 トイレも……うん、大自然にするのはそろそろ終わりにしたい。

 これもなんとか考えよう。


 そういえば斬ったヤシの木の奥。

 ずっと茂みが続いて、森になっていた。


 これも食料に余裕ができたら散策してみるか。

 ギンを先頭に。

 彼女なら猪が出てきても、一瞬で斬り捨てるだろう。


 俺は海。ギンは陸。

 役割分担で色々とできることを広げていこう。


 ……あっ!

 しまった。


 その前に水の確保だ。

 俺が平気だから忘れてた。


 ギンは普通の人間。

 まずは真水をしっかり用意しなくては。

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『万能漁師』スキルをもらってしまった俺、貞操逆転異世界に漂着したんだが~転生者は最強領地の主として快適なスローライフを送ろうとす~ りょうと かえ @ryougae

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