6.ケモ耳サムライとの出会い
銀髪の女の子はぐったりしていた。
しかも普通の女の子じゃない。
頭には犬っぽいケモ耳があって。
銀色のもふっとした尻尾もついている。
さらに刀を差していた。
「!?!?」
わからん。
急展開すぎるぞぉ!
でも水の中に普通の人間はまずい。
死んでしまう。
「……う」
女の子が喘ぐ。
生きているじゃん!
慌てた俺は女の子を抱きかかえる。
「うぁ――ッ!」
女の子が目を覚ます。
「ごぽぉっ! ごふっ!」
水中でパニックになった女の子。
彼女が暴れる。
まずい。
俺までパニックになりそうだ。
とにかく落ち着いてくれ。
ここは海中。
パニックは死を招くだけだ。
とにかく、息があるうちに水上へ――。
そこに鈴のような可愛らしい声が頭の中に響いてきた。
『あれ、息ができます』
「……ごぽ」
『……どういうことでしょう。それにあなたは?』
今、俺は彼女を抱きかかえていた。
えーと……。
『わかりました。この力は水を従える系統――その最上級です。
あなたも水に溺れないのでは? ですよね?』
こくこく。
その通りです、と頷く。
『どうやら、あなた様の周囲にもその力が及ぶようです。
なので私も苦しくありません』
そ、そうなのか?
わからぬ。
シロちゃん以外、いなかったからな……。
『とりあえず、密着したまま陸上に戻ってもらえると……』
ですねー。
ということで、謎の女の子と密着したまま浜に戻った。
というか、アレだな。
びっくりするくらい胸がデカいし、可愛い……。
そして羽衣が半透明で危険だよ。
色々と見えそう。
落ち着け。
心頭滅却すれば火もまた涼し。
煩悩、去るべし。
というわけで浜に戻ってきた。
「ごふっ、ごほっ……!!」
女の子が水を吐き出す。
どうやらちょっと飲んでしまったらしい。
背中をさすりながら、声をかける。
「大丈夫です?」
「あぐっ、ごふぅ……大丈夫ですぅ……」
「にゃあ」
シロちゃんも彼女の手をさすっていた。
しっかりとタイの入った網を持ちながら。
食べ物は貴重だからね、うん。
数分後。
「改めて、ご挨拶申し上げます。
私は天狼幕府、将軍家剣術指南役の四条ギンと申します。
このたびは一命を救っていただき、誠にありがとうございました!」
土下座。
一部のスキもない土下座でギンが挨拶する。
「こ、これはどうもご丁寧に……」
俺はタイの解体処理をしていた。
でないと腐っちゃうから。
「俺の名前は水野祭。こちらはシロちゃん」
「にゃっ!」
シロちゃん、前脚を上げる。
猫ちゃん挨拶である。
「水野様、シロ様ですね。しかと承りました」
「えーと……」
どこから話したものかな。
彼女は初めての異世界人だ。
しかし情報量が多い。
ケモ耳と尻尾。天狼幕府。そしてどうしてここにいたのか。
わからないことだらけだ。
何から聞くか。
とりあえず、どうしてあそこにいたのか。
そこからだな。
「……まず、どうして海の底にいたのか聞かせてくれる?」
「はいっ……これは古からの因縁で、少々長くなりますが」
……。
本当に長かった。
しかも、しんどい話だった。
古代魔術帝国の崩壊。
竜族の介入、世界規模の大魔術。
スケールが大きすぎて、逆にわからん……。
登場人物が出てきては死に、いくつもの国が生まれては滅びる。
これだけでラノベ一冊分になりそうな話だった。
千年に渡る戦争の末。
人族は禁忌の呪いを世界に振りまいた。
それは兵士となる男を根絶し、生まれなくさせる呪い。
世界から男が消えた。
「女性3万に対して男性1人、そこまで男が減ってしまいました」
「おおう……」
思ったより深刻じゃね。
人口が維持できないような。
「無論、ここまで格差ができては国は存続できません。
しかし、救いがありました」
それが世界各地に残された聖域だという。
ここだけは呪いが広がらず、男が普通に生まれる。
確かに救いであり、希望だ。
……だけど、それは。
「今度はその聖域を巡って争いが起こるだけじゃ?」
「ご明察の通り。今度は聖域を求める争いが起こりました。
そして聖域もひとつ、またひとつと戦争で失われていき――。
この島が最後に残った聖域となったのです」
うーむ。
なんという世界。
神様の言った『危機』とはこれか。
大変なことが起きていた。
「そして残った世界の者たちは協定を結びました。
この島を汚すような戦いはしないこと。
そして島を巡る戦いは海の上の決闘によること」
タイの解体が終わった。
しっかり座り直す。
ギンが一瞬、物欲しそうな目でタイを見たが。
まずは話を終わりまで聞こう。
「私は天狼幕府の代表として、この地に来たのですが――。
あの大エルフ帝国の魔女と相討ちになって……!」
「ふにゃー」
シロちゃんが顔を伏せるギンを慰める。
「でも、どうして水晶に?」
「……あれはこの世界で使われている仮死魔術のひとつです。
私の場合は羽衣に仮死魔術が刻まれています。
決闘に挑む者として、備えなければなりません」
「ははぁ……」
要は簡単に死なないように、か。
仮死魔術を刻まれたアイテムを持って、瀕死状態になる。
すると、あの水晶になるらしい。
でも引き上げがなされず、放置されていたのか。
不憫と言えば不憫だな。
「恐らくあの魔女も生きているでしょう。私の近くで」
……なるほど。
というか、今の話だと結構な水晶が海の中にないか?
だってギンだけに限らないってことだし。
まぁ、それは別の話か。
怪しい水晶があったら仮死状態の人かもしれん、と。
にしてもなんで水晶状態が解除されたのか。
「にゃうん」
俺が特別だから?
シロちゃんのつぶらな瞳が、そう言っている。
そうかもしれない。
あの神様のことだから、サービスしてくれたのかも。
気になることは大体、聞けた気はする。
「それでギンはこれからどうするの? 国に戻る?」
船はないんだけどね。
でもボートくらいは生み出せる……か?
それよりもここに残ってくれたほうが嬉しいんだけど。
しかし、これは俺の我がままだ。
「水野様――いえ、主様にこの命を助けられた御恩があります。
その御恩を返さずにどうして国に戻れますでしょうか。
私の腰の神刀『紅桜』も泣いてしまいます。
どうか、ここに置いてはもらえませんでしょうかっ」
ふたたび、土下座。
「……俺は構わないよ。この島は誰のものでもないし。
むしろ嬉しいかな。人手募集中だ」
「ではっ!」
「シロちゃんもいいかな?」
「にゃ!」
シロちゃんがギンの膝をぽんぽんする。
これは序列だ。
君は僕の下。
シロちゃんがそう主張している。
「もちろん、私はシロ様の下でございます!」
「にゃ、にゃ!」
ならばよし。
シロちゃんが俺の隣に飛ぶ。
というわけで、ついに異世界人と接触。
しかも同居することになったのであった。
「
その日の夜。
めでタイでギンをお迎えする。
お酒がないのが残念だ。
でもギンもタイには喜んでくれた。
「ここのタイは絶品です!
空腹が満たされて……あ~、幸せですっ!」
よしよし。
大物タイだから、刺身ならいくらでもあるよ。
そして、ささやかな宴が終わった。
シロちゃんは柔らかなヤシの葉の上で寝ていた。
シロちゃんは一度寝ると起きない。
ギンはまだ起きている。
俺もまだ眠くなかった。
4個の月が俺たちを照らしている。
「主様、まだ起きておられますか」
「……はい」
「寒くはありませんか?」
どちらかというと、ここは暑いです。
「で、では――今日はお隣で寝てもいいでしょうか」
どうぞどうぞ。
「もっと近くで」
断れるはずもなく。
「私の国では、より親密になる風習があります」
ほうほう。
「け、毛づくろいをしてくれませんか」
嫌なわけもなく。
「……もっと強くして大丈夫ですよ」
はい。
男はケダモノです。
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