3.相棒誕生

 翌朝。

 気がついたが、喉が渇かない。

 でも身体に不調はない。


 もしかして……海水から水分を摂取している?

 それくらいしか考えられないが。


 不思議だ。

 これも『万能漁師』の力と思おう。

 水は味方だって神様、言ってたしな。


 2日目、昨日と同じように漁に出かける。

 色とりどりの魚が俺を待っているんだ。


 昨日と同じくらい、悪戦苦闘しながら魚を捕まえる。

 でも銛よりはやはり網だ。

 それに隙を狙う漁法。


 俺には疲れがない。

 じっと待てる。


 他の魚に追いかけられている魚、獲物を狙う魚。

 そういう動く魚を狙う。

 そしてその魚が止まった瞬間、網を振るうのだ。


 ……成功率は1割以下だけど。


 仕方ない。

 そんなに自然は甘くなかった。

 でもお腹は減ってない。


 また小さなタイを捕まえ、浜に戻る。


「とったどー!」


 魚を捕まえて浜に戻る時には、これを言う。

 絶対に言う。

 勝利を確かめるのだ。


 俺以外、誰もいない砂浜だけど。

 だからこそ叫べる。


「ん?」


 しかし浜に戻ったその時は、違った。


「……にゃー」


 鳴き声がする。


 猫だ。

 それもふわふわの白猫。

 デカい。

 俺の膝くらいまである。

 異世界サイズなのだろうか。


 でもふわふわ、もこもこしている。


 可愛い。

 びっくりするほど可愛い。


「にゃーん……」


 白猫が俺の獲ったタイを見つめている。


 きゅるるる……。

 お腹の鳴る音。俺じゃない。

 この猫からだ。


 もしかして……お腹が空いてるのだろうか。


「この魚、食べたいのかい?」


「にゃー!」


 白猫がこくこくと頷く。

 まさか……言葉が通じた?


 いや、偶然だ。


 魚を見たら食べる。

 それは生き物なら当然のこと。


 よし、俺もそんなに腹が減っているわけじゃない。

 この猫と分けよう。


 タイを解体し、また刺身へ。

 そして刺身のいくつかを白猫にあげてみる。


「にゃーん!」


 白猫は踊りながら喜んでいた。

 癒される。


 にしても、なぜここに白猫……?

 いや、ここは異世界の島だ。

 デカい猫くらいいるよな。


 そもそもサンゴ礁にタイとかの時点でちょっとおかしい。

 魚の数も種類も多い。

 どうやらこの海は、めちゃくちゃ豊かなのだ。

 やはり異世界。

 だから砂浜に猫がいても不思議じゃない。


 そう思うことにしよう。


「よーしよし。もっと食べてくれ」


「にゃ!」


 まさか異世界でこんな出会いがあるとは。

 猫は喜んでタイの刺身を食べてくれる。



 昼、ご飯が終わっても白猫は俺のそばを離れなかった。

 むしろ俺の胸の中で寝ている。


「にゃー……」


 ふわふわ、ずっと撫でていられる。

 俺も昼寝しよう。


 暖かい日差し、ふかふかの白猫。

 最高の昼下がりだ。


 そして午後。

 もぞもぞと動いてみると、白猫が騒いでいる。


「にゃー!」


 なんだ?

 白猫が俺のズボンを引っ張って砂浜に連れて行く。


「にゃ、にゃあっ!」


 白猫が海の中を羽で差している。

 海の中に何かあるのか。

 どれどれ……。


 おっ、魚の群れだ。

 それも波打ち際にたくさんいる!


 これはサンマ、か?

 サンマがこんな浅瀬に群れているとは。


 これはもしかして、ボーナスステージというやつでは?

 獲らない理由がない。


「よし、いくぞ!」


「にゃあん!」


「……君も行くのかい?」


 白猫、泳げるの?

 わからない。

 水浴びはできるだろうけど。


 でも異世界白猫だ。

 泳げるのかも……。


 白猫は躊躇なく海に入る。

 やる気だ。

 あの自信満々の尻尾は白猫は魚を獲る気だ。


 遅れてはいけない。

 せっかくの大漁チャンスだ。

 ざぶざぶと海に進む。


 入った所から海は魚だらけだ。

 大きい魚も小さい魚も、地味な魚も色鮮やかな魚も。

 昨日も魚が多いと思ったが、今は桁違いに多い。


 でもさすがに俺と白猫は避けていく。

 さっさと捕まえなくては。

 ようし、網を出して漁の時間だ。


 白猫は海の中もすいすいーと泳いでいた。

 凄まじい加速と急下降。

 はやっ……。

 俺より断然速いじゃないか。


 狙うのは……そうだな。

 少し遠くにいて俺たちに気づいてなさそうなサンマの群れ。

 あの群れを狙っていこう。


「にゃー!」


 白猫が水中で前脚をばたつかせる。

 驚いた魚がこちらに向かってきた。


 ……もしや。

 俺に獲ってくれ、ということか。


 なんて賢いんだ。


 パニックになった小魚の群れ。

 そのひとつに狙いを定める。


 よし、ここだ!


 近づいてきた瞬間に網を振るう。

 ばっちり獲れた。

 網いっぱいのサンマだ。

 これぞ大漁!


 とったどー!


「にゃー!」


 猫ちゃんも喜んでます。

 ふたりの勝利だ。

 君の食べる分もたくさん獲ろう。


 一旦、浜に戻って魚を処理をする。

 処理をした魚は近くのヤシの葉に包んでおく。

 これで大丈夫だ、多分。


 処理を終えたらまた海へ。

 獲れるだけ獲ろう。


 魚の群れを白猫が追いこみ、俺が網で獲る。

 見事な役割分担。

 ふたりでやると、ここまで獲りやすくなるのか。

 効率性が段違いだな。


「にゃっふ!」


 よーしよし。

 いいこだ。


 数時間後。

 食べきれないほど魚が獲れたので、浜で休もう。


 もちろん大いに役立ってくれた白猫にたくさんの魚を渡す。

 腹いっぱいになってくれ。


「にゃああんー♪」


 白猫がガツガツと魚を食べる。

 その横で俺も魚を食べる。


 この海の魚はどれもうまい。

 外れがないのが凄いことだな……。


 この海はよほど特別なのだろう。

 ここに送ってくれた神様に感謝だ。


「にゃ、にゃーん」


 お腹いっぱいになった白猫がちょこんと砂浜に座る。

 本当に可愛いな……。


 この子とずっといたい。

 なにせ異世界で、初めての仲間だ。

 ここで別れたくない。

 本当にそう思う。


「君、俺と一緒に暮らさないか?」


 この白猫と一緒なら、漁も効率良くできる。


「にゃ? にゃあっ!」


 白猫がこくこくと頷く。

 オッケーらしい。


 となったら……。

 次は呼び方だろうか。

 名前が欲しい。


「よし、君の名前はシロちゃんだ。どうかな?」


 真っ白だからな、うん。

 安直だけどイイ名前のはず。


「ふにゃーー♪」


 シロちゃんが尻尾を振って喜んでくれた。

 俺も嬉しい。


「あっ、俺の名前は水野祭。

 よし……今日から頑張ろうな」


「にゃ!」


 異世界で相棒ができた。

 泳ぐ巨大白猫のシロちゃんだ。


 これからよろしくな。

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