第3話 じゅんび
たくさんの荷物を抱えて帰ると、ママは目を丸くして高い声を出した。
「パパったら、また増やしたの!」
「ちがうちがう、これはみおのだ」
パパがあわててそう言うと、ママはさらに目を丸くして、みおを見た。みおはなんだか、急に恥ずかしくなった。
ママはみおと、みおが抱えているあくあしょっぷの袋をまじまじと見つめ、ぱちぱちとまばたきをした。それから困ったようにパパを見て、またみおを見た。なんて言おうか迷っているみたいだった。
「……ちゃんと、最後まで育てるのよ」
みおは、黙ってうなずいた。
***
「それじゃあ、フグのおうちを作ろう」
みおの部屋に荷物を降ろすと、パパが嬉しそうに言った。本当はパパの部屋に置きたかったのだけれど、もう場所がないからダメだと言われたのだ。
それからは、とても大変だった。まずは、水槽を水洗いして、サンゴ砂も洗った。バケツに砂を入れて、ゴム手袋をはめ、お米を研ぐような感じで洗った。
水槽にサンゴ砂を入れて、組み立てたフィルターとエアポンプ、ヒーター、水温計をセットした。トンネルみたいなやつも入れた。フグの隠れ家になるらしい。
それから、バケツで水を汲んできて、水槽に入れた。みおの部屋は二階で、水道は一階にしかないから、バケツを持って何往復もした。そして最後に、いろんな薬を入れた。水の中の悪いものを取り除く薬や、コケが生えにくくなる薬、それから、バクテリア。バクテリアというのは、目に見えない小さい生き物のことで、水の中のゴミを食べてくれるらしい。
一時間ほどして、準備が終わった。みおはへとへとだった。
「電源を入れて、完成だ」
電源を入れると、フィルターがぐぐっと水を吸い上げて、出口から水がちょろちょろと流れた。エアポンプからは聞き慣れたぽこぽこという音がする。みおの好きな音だ。なんだか、自分の居場所が増えたみたいだ、とみおは思った。
「それでは、これから一週間待ちます」
パパが言った。みおはびっくりしてしまった。明日にはフグをつれて帰れると思っていたのだ。
「水が安定するまで、時間がかかるんだよ。さっきバクテリアを入れたでしょ? あれが増えるのに時間がかかるんだ」
「……ふえないままフグを入れたら、どうなるの?」
「うーん、なんていうのかな……バクテリアは、フグの食べ残しやフンを分解してくれるんだけど、それが間に合わなくなって、どんどんお水が汚れちゃって、フグも弱っちゃう……みたいな。わかるかな」
「……わかった」
みおにも、なんとなくだけれど、わかった。フグが弱ってしまうのなら、しかたがない。それから一週間、みおはぐっと我慢し続けた。
そういえば、みおは我慢が得意だった。学校だって一年我慢できたのだ。だから一週間なんて、あっという間だとみおは思っていた。けれど、久しぶりのみおの予定は、なんだかとても遠かった。
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