第12話 同じ訓練、違う結論

衝突は、作戦中ではなかった。


むしろ――

すべてが終わった後だった。


国家規模の実戦投入は、表向きは成功だった。

火薬銃を主軸にした防衛線は機能し、敵は撤退した。

被害も、想定より少ない。


だが、現場から戻った男の目は、冷えていた。


「……遅い」


それが、第一声だった。


「管理だ、制限だ、手順だ。

その間に、敵は逃げた」


俺は装備を外しながら答える。


「逃げたなら、それでいい。

追えば、血が増える」


「血は、戦争のコストだ」


男はそう言って、ナイフをテーブルに置いた。


――来るな。


「今日、俺が前に出ていれば、

敵の指揮官は捕らえられた」


「その代わり、民間人が巻き込まれた」


即答だった。


「……確率論だ」


男が一歩、近づく。


「お前は、戦争を“抑える”ことに固執しすぎている」


俺も、立ち上がった。


「お前は、“終わらせる”ために、

また次の戦争を生む」


空気が、張り詰める。


「同じ訓練を受けてきたはずだ」


男が言う。


「CQCでは、

迷った方が死ぬ」


「だから――」


俺は、ナイフを取った。


「今、ここで決着をつける」


次の瞬間、

男が笑った。


「それでいい」


照明を落とす。

銃は使わない。

部下も呼ばない。


ここにあるのは、

二人分の経験と、

二本の刃だけだ。


――動いた。


距離を詰める速度は、ほぼ同時。

フェイント、踏み込み、刃の軌道。


俺の脇腹を狙った一撃を、

肘で弾く。


反撃。

喉を狙う。


だが、男はもういない。

背後。


――速い。


背中に衝撃。

床に転がる。


即座に立ち上がり、

相手の手首を掴む。


捻る。

骨が鳴る。


「……甘い」


男の膝が、腹に突き刺さる。


息が詰まる。

だが、構わない。


距離が近すぎる。


CQCは、我慢比べだ。


刃が腕をかすめ、

血が落ちる。


俺は男の襟を掴み、

壁に叩きつけた。


「管理しなきゃ、

この世界は壊れる!」


「壊れる前に、

焼き払うんだ!」


互いに、譲らない。


再び、刃が交差する。


数秒。

いや、数十秒か。


どちらかが致命傷を負っても、

おかしくない距離。


――そして。


俺のナイフが、

男の喉元で止まった。


同時に、

男の刃も、

俺の心臓の前で止まっている。


呼吸音だけが、響く。


「……引き分けだな」


男が、低く言った。


「そうだな」


刃を下ろす。


床に、血が滴る。

だが、どちらも生きている。


「結論は変わらない」


男は言う。


「俺は、前に出る。

最短距離で、敵を叩く」


「俺は、後ろで管理する」


俺は答える。


「戦争を、次につなげない」


沈黙の後、

男は小さく笑った。


「……だから、お前と組んだんだ」


ナイフを鞘に戻す。


思想は噛み合わない。

だが――


戦場では、

互いの“違い”が、

最大の武器になる。


こうして《アイギス・コントラクターズ》は、

二つの刃を持つ組織になった。


制御と突破。

管理と強行。


戦争は、

より危険に――

そして、より“現実的”になっていく。

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元PMCが転生したら、異世界の戦争が甘すぎた ― 異世界傭兵会社戦記:部隊編成から始める現代戦争 ― 羽蟲蛇 響太郎 @Kyotaro_1123

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