第11話 同じ戦場、違う答え

会議室に、重い沈黙が落ちていた。


俺と、もう一人の元PMC。

互いに椅子に座り、地図を挟んで向かい合う。


「まず確認しよう」


俺が口を開く。


「お前の言う“戦争を終わらせる”ってのは、どういう意味だ」


男は迷わず答えた。


「圧倒的な力を見せつける。

抵抗する気力そのものを折る」


予想通りの答えだった。


「短期決戦。

犠牲が出る前に、戦争の芽を焼き払う」


効率的だ。

現代戦でも、よく使われた考え方だ。


だが――


「それは“終わったように見える”だけだ」


俺は静かに言う。


「力で押さえつけた戦争は、必ず形を変えて戻ってくる」


男は、わずかに眉をひそめた。


「理想論だな。

現実じゃ、管理なんてできない」


「できる」


俺は、地図を指で叩いた。


「管理するからこそ、武器を制限する」


男が鼻で笑う。


「火薬銃を作っておいて、制限だと?」


「だからこそだ」


俺は立ち上がり、壁に掛けられた設計図を示す。


「この国で、兵器開発を一元化する」


部屋の空気が変わる。


「勝手に広まる前に、

作れる場所、作れる人間、使える部隊を限定する」


それは、前の世界で何度も見た失敗への答えだった。


「兵器は、広まった瞬間に制御不能になる」


男は黙り込む。


「だから《アイギス》が関与する。

国家と契約し、

軍と連携し、

勝手な戦争を起こさせない」


しばらくして、男は低く言った。


「……それは、国家の犬になるってことだ」


「違う」


俺は即答した。


「国家を顧客にする」


その言葉に、男は目を見開いた。


「主導権は、こっちが握る。

兵器開発も、運用も、教練もだ」


俺は続ける。


「すでに始まっている」


別室に移動すると、そこには――

鍛冶師、魔法技師、学者たちが集まっていた。


火薬銃の改良型。

安全装置付き。

口径統一。

弾薬規格化。


「……本気か」


男が呟く。


「この国の技術水準を、

一気に引き上げる気だな」


「ああ」


俺は頷く。


「この国自身が、兵器を作り、管理できるようにする」


外注ではなく、依存でもなく、

“自前”の戦力。


それは、短期的には遅い。

だが、長期的には最も安定する。


男は腕を組み、考え込む。


「俺なら……

もっと早く、血を流させる」


「それは簡単だ」


俺は言った。


「難しいのは、

血を流さずに終わらせることだ」


沈黙。


やがて、男は小さく息を吐いた。


「……やっぱり、お前とは考え方が違う」


「同じである必要はない」


俺は手を差し出す。


「だが、

同じ戦場で、別の役割は担える」


男はその手を見つめ、

しばらくしてから、握り返した。


「俺は、前に出る」


「俺は、後ろで管理する」


短く、役割が決まる。


この瞬間、

《アイギス・コントラクターズ》は――

単なる傭兵会社ではなく、


国家の戦争構造そのものに介入する存在になった。


兵器開発は、もう止まらない。

だが、それをどう使うかは――

俺たち次第だ。


戦争は、

思想の違いを抱えたまま、

次の局面へ進んでいく。

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