第9話 黒い粉は、世界に気づかれる
火薬は、扱った瞬間に分かる。
これは――味方も殺す力だ。
俺は倉庫の奥で、黒い粉を小分けにしていた。
湿度、配合、圧縮率。
どれか一つを間違えれば、暴発する。
「……冗談じゃないな」
魔力式試作銃とは、次元が違う。
便利さと引き換えに、制御不能という牙を持っている。
「やるぞ」
集めたのは、最小限の人数。
信頼できる者だけだ。
まずは銃身。
厚みを持たせ、構造は単純化。
装填は一発。連射など考えない。
「欲張ると死ぬ」
それが、この段階での鉄則だった。
完成した試作銃は、無骨だった。
だが、確実に“銃”の形をしている。
試射は、廃鉱山の奥。
周囲に誰もいないことを確認する。
「全員、下がれ」
俺が構え、深く息を吸う。
引き金を引く。
――ドンッ。
爆音。
反動。
硝煙の匂い。
的は、粉砕されていた。
「……通ったな」
成功だ。
だが、次の瞬間。
――バチン。
銃身の一部が弾け、破片が飛ぶ。
「伏せろ!」
遅かった。
兵の一人が腕を押さえて倒れる。
致命傷ではない。
だが、血が出ている。
俺はすぐに駆け寄り、止血する。
「……すまん」
兵は歯を食いしばりながら、首を振った。
「覚悟は……してました」
その言葉が、胸に刺さる。
これが現実だ。
現代武器は、代償を要求する。
その夜、俺は銃を分解しながら考えていた。
改良点。
安全装置。
量産性。
そして――
隠しきれない事実。
この音は、
この匂いは、
もう隠せない。
案の定、動きは早かった。
数日後、王都経由で情報が入る。
「……他国が、警戒を始めている」
使者の声は、硬かった。
爆音を伴う新兵器。
反乱軍を止めた正体不明の傭兵団。
噂は、尾ひれをつけて広がる。
さらに、別の報告。
「他の傭兵団が、こちらを探っている」
俺は苦笑した。
同業者は、匂いに敏感だ。
そして――
最も厄介な存在でもある。
夜、見張りから報告が入る。
「不審者を確認。
数は一。接触はなし」
――来たな。
影からの視線。
評価する目。
俺は、銃を手に取り、呟く。
「もう、隠れる段階じゃない」
《アイギス・コントラクターズ》は、
小さな傭兵会社ではなくなった。
火薬銃は、
戦争を変える力を持つ。
同時に――
世界から狙われる理由にもなる。
俺は部隊を集め、宣言した。
「これから先、
俺たちは“便利な傭兵”じゃない」
静まり返る。
「危険な存在になる」
それでも、誰も離れなかった。
火薬の匂いが、まだ空気に残っている。
この黒い粉は、
戦場だけじゃない。
国を動かし、
傭兵を呼び、
そして――
別の“元PMC”を、確実に引き寄せる。
戦争は、
もう一段――深くなった。
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