第8話 最初の発砲、そして黒い粉
作戦は夜明け前に始まった。
目的は単純だ。
反乱軍が使っている廃鉱山――その外縁部を叩き、動きを鈍らせる。
「今回は、試す」
俺は部隊にそう告げた。
「敵を倒す必要はない。
止められるかどうかを見る」
試作銃は三丁。
使うのは、訓練で最も安定していた三名だ。
「狙いすぎるな。
距離を保て。
俺の合図で撃て」
全員が、無言でうなずく。
鉱山の入口近く、見張りが二人。
剣と弓。
気は抜いていないが、警戒線は甘い。
「……今だ」
合図と同時に、
乾いた音が闇を切り裂いた。
――パン。
魔法でも、弓でもない音。
見張りの一人が、脚を押さえて崩れ落ちる。
致命傷ではない。
だが、動けない。
もう一人が叫ぶ前に、
二発目が肩を貫いた。
敵は混乱し、後退する。
「……止まった」
誰かが、呆然と呟いた。
追撃はしない。
目的は達成だ。
反乱軍は鉱山に引きこもり、
こちらは被害ゼロ。
撤退は、静かだった。
陣に戻ってからも、
兵たちは試作銃を見つめていた。
「……魔法より、早いな」
「弓より、簡単だ」
俺は頷く。
「だから危険なんだ」
その日の夕方、
俺は鉱山の外縁を再調査していた。
使われていない坑道。
崩れかけの作業場。
そこで、異臭に気づく。
――硫黄。
足を止め、地面を掘る。
黒ずんだ粉が、指に付いた。
「……まさか」
魔法使いを呼び、確認する。
「これは?」
彼女は粉を見て、眉をひそめた。
「燃える。
だが……魔力じゃない」
俺の背中を、冷たい汗が流れた。
硝石。
硫黄。
炭。
条件は、揃っている。
「火薬だ」
その言葉に、全員が凍りつく。
この世界に、火薬がある。
使われていない理由も、分かる。
精製が難しく、失敗すれば危険すぎる。
だが――
俺は、それを知っている。
扱い方も、
危険性も、
そして――可能性も。
試作銃は、あくまで“入口”だった。
本物は、ここからだ。
夜、焚き火の前で、俺は宣言した。
「次に作るのは――
本物の銃だ」
沈黙。
「この世界の戦争は、
もう後戻りできない」
誰も、否定しなかった。
遠くで、雷が鳴る。
黒い粉は、
静かに袋の中で眠っている。
やがてそれは、
この世界の戦争を――
根こそぎ変える。
俺は確信していた。
引き金の音は、
もう二度と――
一度きりでは終わらない。
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