第7話 引き金の音は、二度響く

最初にやったのは、銃を作ることじゃない。

――銃を成立させる条件を洗い出すことだった。


火薬はない。

正確には、使えない。


この世界の火薬は不安定で、再現性が低い。

連射など論外だ。


「なら、別の推進力を使う」


魔法使いと鍛冶師を交え、俺は設計図を引いた。

構造は単純。

複雑な機構は、故障率を上げるだけだ。


弾丸は金属。

推進力は――魔力。


魔力結晶を圧縮し、瞬間的に解放する。

一発ずつ。

確実に。


「……これ、弩じゃないのか?」


誰かが言った。


「違う」


俺は首を振る。


「引き金で撃てる。

 それだけで、戦争は変わる」


数日後、試作品が完成した。


銃身は短い。

装弾数は一発。

だが、構えは完全に“銃”だった。


俺は的に向け、深く息を吸う。


――懐かしい。


引き金を引いた瞬間、

乾いた破裂音が倉庫に響いた。


弾丸は、的の中心を正確に撃ち抜く。


沈黙。


次の瞬間、誰かが息を呑んだ。


「……当たった」


「当たるさ」


俺は淡々と答える。


「狙えばな」


問題は威力だ。

魔法障壁には通らない。

重装甲にも弱い。


だが――


「殺すための武器じゃない」


俺は言った。


「制圧するための武器だ」


訓練を始める。

誰でも扱えるように。

引き金を引くことに、躊躇しないように。


部隊の動きが、変わっていく。


距離が変わる。

判断が早くなる。

敵が近づく前に、止まる。


これは――

確かに、現代戦の入り口だった。


その夜、俺は一人で倉庫に残っていた。


試作銃を分解し、組み直す。

指が、自然に動く。


その時だった。


――視線。


俺は即座に灯りを落とし、物陰に移動する。


「……いるな」


返事はない。


だが、気配は消えない。

隠し方が、素人じゃない。


「出てこい」


数秒の沈黙の後、

倉庫の影から、一人の男が姿を現した。


軽装。

動きに無駄がない。


そして――

俺と同じ目をしている。


「やっぱりな」


男は、低く笑った。


「その音、聞き間違えるわけがない」


俺は、ゆっくりと立ち上がる。


「……どこで覚えた」


「前の世界だ」


即答だった。


「PMC。

 所属は違うが、仕事は同じだろ?」


確信した。


こいつは――

俺と同じ“向こう側”の人間だ。


「驚かないんだな」


「驚くほど、余裕がない」


俺は言う。


「質問は一つだ。

 敵か?」


男は、肩をすくめた。


「今は、観測者だ」


そして、試作銃に視線を落とす。


「だが――

 それを作ったってことは、

 もう戻れない段階に来たってことだ」


俺は、静かに答えた。


「戦争を終わらせるには、

 同じ武器を持つしかない」


男は、影に溶けるように後退した。


「近いうちに、また会う」


最後に、こう言い残して。


「この世界には、

 もう一人じゃないぞ。元PMC」


気配が、消える。


俺は深く息を吐いた。


――やはりな。


現代戦の知識は、

俺だけのものじゃない。


試作銃を手に取り、俺は呟く。


「……戦争は、次の段階に入った」


引き金の音は、

もう一度――

必ず、響く。

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